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第4章:貴族たちのざわめきと、新たな求婚者

この物語を読んでくださり、ありがとうございます!

 王子の一言で幕を開けた婚約破棄劇は、しかし──

 数瞬の静寂を破ったのは、リュシエルの毅然とした態度と、堂々と現れたフェルナンデス侯爵夫妻だった。

「王妃殿下、お耳に入っていないようですが──この件、すでに王室に“正式な”報告がなされております」

「……っ、正式な……?」

 王妃が顔をこわばらせる。

 侯爵夫人──リュシエルの母であるエレオノーラは、片手で扇子を開いて微笑んだ。

「ええ。そちらの王子殿下が、半年以上一度も娘に会おうとせず、礼の品も一切送られず、そのうえ陰口を広めていたと……。あまりに不誠実でしたので、私どもから国王陛下に事情をご説明させていただいたのです」

「なっ……!」

「では皆さま。お忘れになりませんよう、今夜この場で“王子が正式に不誠実な形で婚約を破棄した”という事実。後の記録にも残りますわね?」

 にっこりと笑うリュシエルに、辺りの空気が一変する。

 ──そう、“空気”が。

 さっきまで冷ややかな視線を向けていた貴族たちが、ざわざわと色めき立ち始めた。

「……あのドレス、まさかルヴィア公国の……?」

「いや、間違いない。去年の使節団に帯同していた公爵夫人の織物だ」

「外交官の令嬢、各国と顔が利くって本当だったのか……」

「ということは……あの娘の“価値”は王族より……?」

 それは、社交界ではよくある手のひら返し。だが、今のリュシエルにはもはや、恐れる必要はなかった。

 そんな中、一人の青年がすっと前へと進み出る。

「この場をお借りしてよろしいですか、フェルナンデス嬢──いえ、リュシエル殿」

 声に会場が再び静まりかえる。

 ──長身で、銀灰の髪。ルヴィア公国の紋章を刻んだマントを翻し、彼は軽く片膝をついた。

「私はルヴィア公国、次期公爵カイル・リュグナー。かつて王都で共に時間を過ごしたことを、覚えておいででしょうか」

「もちろん。あなたのお母様には、いつもよくしていただきましたわ」

「それは何より。では──」

 青年は、笑みを浮かべて手を差し伸べた。

「この場にて、あなたに正式に婚約を申し込みます。貴女の知性、品格、国を越えて通じる胆力に、心から敬意を抱いております」

 再び、会場が騒然となった。

「ルヴィア公国の次期公爵!?まさか、そんな高位から……!」

「外交のラインで繋がっていたのか……!」

 リュシエルは、少しだけ目を細めた。

(あのとき……書簡の文面に気遣いがにじんでいたのは、こういうことだったのね)

 彼はただの次期公爵ではない。ルヴィア国内では国王の甥にあたり、事実上の王位継承権も持つ有力者。

 リュシエルはその手を、ゆっくりと取り──

「……喜んで」

 柔らかく、しかしはっきりと応じた。

 その瞬間、場内は拍手と歓声に包まれた。

 王妃の顔がひきつり、レオンハルトは青ざめて拳を握り締めていた。隣では、イリーナが凍りついた顔でリュシエルを見つめていた。

「……な、なぜ、あの人が……っ、私の方が……」

 そう、イリーナにとっては想定外だった。

(この場で恥をかかせれば、“自分が代わりになれる”と思ってたんでしょうね)

 リュシエルはその視線を受け止めることなく、そっと踵を返した。

「では、次は誰と踊りましょうか。……ルヴィアの公爵と踊っていたら、きっとまた他の国も声をかけてくるでしょうし」

 冗談めかして笑う彼女に、会場の貴族たちがどっと笑う。

 まるで空気が切り替わったように、次々と舞踏の申し込みが舞い込んでくる。

 リュシエルの勝利は、誰の目にも明らかだった。

お読みいただきありがとうございます。

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