義理の言葉
「ただいま」
玄関から続く廊下を抜けてリビングへと歩いていく。
リビングではソファの上に寝転がり、優雅にだらけている人がいた。
「おかえりー」
その人物は信夜が入ってきたのに気がつくと持っていたスマホを置いて体を起こす。
「ただいま。そんなことするなら、自分の部屋でしたらどうだ?」
「えー、帰ってくるの待ってたんじゃん。その言い方酷くない?」
不満げな顔で文句を垂れる。
信夜よりも帰ってくるのが早かった場合、待たれているのはいつものことであったが信夜はその意味をあまり理解することができていない。
出迎えてくれるというのは嬉しいことなのではあるのだが、そこまでされる必要があるのだろうか。
「それで」
「なに?」
「さっきの人誰?お兄ちゃん」
「ただの友達だよ、遥香」
遥香は目を細めてじとっと信夜を見る。
このさっきからじっと信夜を見つめている人物は今日の帰り道でも会った遥香だ。
フルネームは空松遥香。信夜の妹にあたる人物だ。
といっても、血は繋がっておらず、親の再婚で家族になった義理の家族だ。年齢に関しても二ヶ月信夜の方が誕生日が早いだけで同学年だ。
親が再婚したのは小学校低学年の頃。それからずっと一緒に暮らしている。
「信じられないよ。彼女とかじゃないの?」
「違う。会ったのは最近だぞ」
信夜ははっきり否定するが遥香の訝しげな顔はおさまらない。
「あっそ。でも、彼女ならちゃんと紹介してよね、お兄ちゃん」
そっぽを向いて明らかに不機嫌そうな態度を遥香は見せる。
信夜は「だから違うって」と軽くため息をついて言った。
自分と星上がそんな関係に見えることに驚きを覚える。上手く話せてすらいなくてそう思える要素はなさそうに信夜は感じていた。
それに、星上も自分とそんなふうに思われるのは嫌だろう。
「というか、遥香はほんっと中だと態度変わるよな」
外では仲の良さそうに名前呼びをしてくるが、家の中ではなぜかそうではなくなる。
こんな感じになったのは一緒に暮らし始めて一年ほど経ってからからだった。最初は今の外と同じような感じだったが突然変わった。一年間に何があったのかは信夜はわからない。
「嫌なの?」
「そういうわけじゃないけどさ」
「じゃあ、いいよね?」
そういうふうに言われると断りづらい。
信夜としては別に何か特段支障があるわけではない。しかし、遥香としてはそういうわけにはいかないかもしれない。
あまり教えてくれないから簡単には踏み込めないが。
「とりあえず、好きな人ができたならグイグイいくといいよ」
突然話が戻ってしまった。
それほどまでに遥香にとってこの件は興味を引かれるものなのだろうか。
好きな人が現状いないからこのアドバイスは今ほとんど無意味だ。しかし、ここまで言うのはもしかしたら心配してくれているのかもしれない。
「恋人がいる人のアドバイスは身に染みるよ」
遥香はむっとわかりやすく表情を変えた。
遥香には彼氏と呼べる人物がいるらしい。しかし、その相手が誰なのかは教えてくれないので詳しく知らない。
そう言ってきたのは去年の夏。夏祭りがあった頃ぐらいに報告してきた。
そういう相手がいるということだけ伝えて他に情報はなし。わかるのは定期的にデートに行っているらしいことだけ。
「今関係ないでしょ」
「ごめんって」
少し怒りが混じっているような顔の遥香は向ける。
詮索はされたくないらしいが何かあれば相談して欲しいと信夜は思っている。
ずっと一緒に暮らしてきた家族に幸せになって欲しいと思うのは当たり前のことだろう。




