放課後の気分
全ての授業が終わり、放課後となった瞬間はおそらく多くの人のテンションが昂る瞬間だろう。
ある者は友達と一緒に帰ったりどこかに寄ったり、またある者は部活動に勤しんだりする。
きっとほとんどの生徒は学校から家に帰るまでの時間の大半を友達や先輩といった人たちと過ごすのだろうが、友人が休みだった信夜は一人であることを余儀なくされていた。
別に特段寂しいという気持ちは信夜にはない。しかし、退屈であることを否定することはできなかった。
昇降口まで来ると靴を履き替え、校舎を出る。
まだ放課後になったばかりだからか校舎の周りには多くの生徒がいた。
その中でも特に存在感を出している人物がいる。大雅明日華。先日磯立からの告白を断ったと思われる人物だ。
大雅は友人らしき女子生徒と並んで校門の方へと歩いていっている。そして、その美貌から周囲の生徒に注目されていた。
真実は知らないが、噂によれば学校内にとどまらず、周辺の学校まで名を轟かしている美少女。その人物の一つ一つの行動を見逃さまいと特に男子生徒が興味を示していた。
信夜は昇降口の前にある階段を降りる。すると階段の脇に見覚えのある生徒が立っているのが見えた。
「こんなところで何してるんだ?」
信夜が近づいて話しかけると徐にその生徒は顔を振り向かせる。
その生徒というのは星上美麗。何かをぼーっと見つめて佇んでいたから信夜は気になって声をかけた。
星上の視線の先には校門があるが見える景色の中でどれを見ていたのか特定することはできない。
「あ、あの、こんにちは」
星上は丁寧に頭を下げて挨拶をする。信夜も「こんにちは」と軽く頭を下げた。
「それで、何してるの?」
「特に何も」
「そう?」
「その、私、一緒に帰る人とかいませんから」
星上は苦笑いを浮かべる。
どうやら失礼なことを聞いてしまったらしい。自分でもなんて気の利かないことを聞いたんだと信夜は心の中で後悔する。
目的もなく黄昏るようなことだって人にはあるだろう。
「ごめん」
「い、いえ。気にしないでください」
星上は慌てて両手を振る。
こんなにも気を使わしてしまって申し訳ない。きっと嫌な思いをしてしまっただろう。
「その、星上さんってどっち方面に帰る?」
「どうして?」
星上は少し訝し気な表情を見せる。
突然個人的なことを聞かれたのだ当たり前の反応だろう。
「もし良かったらさ、一緒に帰らない?もちろん、星上さんが良かったらだし、家が同じ方向かもわからないんだけど」
星上は目を丸くして信夜を見た。
それもそうだろう。いきなりこんなことを言われても困惑する。
星上からすればこんなことをする意味なんてわからない。なぜそんなことをしなければならないのかと思っているだろう。
信夜がこんな行動を取ったのはどこか星上が寂しそうに見えたからだ。
これは自分の勝手な感性で憶測だと信夜はわかっている。差し出がましいことだと思っている。しかし、なぜか放っておくこともできなかった。
「ごめん。いきなりこんなこと言って、困るよね」
星上が何のアクションも起こさないので信夜は慌てて謝罪を述べる。
自分の行動がなんだか気恥ずかしくなって信夜は星上と視線を逸らした。
「ち、違います。・・・・・・その、私左側に歩いて行くんですけど」
星上は指で自分の帰る方向を俯いて指し示す。
校門を出て左なら信夜と同じ方向だった。
自分の帰路を教えてくれたのなら了承してくれたのだろうと信夜は安堵の息を吐く。
「俺も同じだ。じゃあ、一緒に帰らない?」
「・・・・・・はい」
星上が体の向きを変えるのを見て信夜もそれに続く。
そしていつもと変わらない校門へと向かって歩き出した。