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学校の隠れ美少女と今日も喋る  作者: 粗茶の品
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お見舞い


 学校の帰り道、信夜はふと足を止めた。そこは見慣れぬ街並みの中、一軒家の前。昨日知ったばかりの星上の家の前だ。

 信夜の家からもそれほど離れていないそこは少し遠回りすれば戻ることなく自分の家に行くことができるので信夜は気がついたら辿り着いていた。

 今、どうしているのかが気になっている。それを抑え込むことができなかったのだろう。今日は学校であんなことを話されたのだから仕方ない部分も信夜はあると自分に言い聞かせる。

 しかし、ここまで来たものの、いきなりインターホンを押して「お見舞いに来ました」なんて迷惑だろう。ましてや男をいきなり上げるなんて嫌だと思うかもしれない。

 来ておいて信夜はそれが恐れてこれ以上は前に進めなかった。

 信夜は二階建てのその二階の窓を一度見てから足を角度を変えた。


「あら、その制服は」


 振り返るとそこには見たことのない女性が立っていた。片手には鞄を下げている、高身長のおっとりした印象を持たせる女性。学校に訪れれば注目されそうな美貌をその女性は持っていた。


「あなた、うちの子と同じ学校?あ、ここから近い高校ね」


 信夜はなぜ高校名を言わないのか疑問に思いつつ軽く頷く。すると女性は一気に前に詰め寄ってきた。

 うちの子と言われても一体誰のことかわからない。しかし、ここから近い高校だと言われるとおそらくそうだ。この辺りには女子校と信夜が通っている一般校の二つがある。さすがに制服で判断しているし女子校だと思われてはないはずだ。


「それにしてもうちの前でどうしたの?」


 信夜はハッとする。

 うちの前ということはもしかするとこの女性は星上の母親である可能性が出てきた。よく考えれば知らない同じ高校の男子が家の前で立ち止まっていたなんて気持ち悪いだろうし、悪印象を与えたかもしれない。

 信夜は少し狼狽える。


「もしかして、うちの子の友達⁉︎」


「・・・・・・えっと、あの、たぶん、はい」


 信夜が返事すると女性は肩を叩き出した。


「なんだ、そうだったの。美麗、今日休んだから心配で来てくれたのね」


 これで、誰の母であるかが確定した。やはり星上の母親だったらしい。

 星上母は叩く手を止めると今度は肩を掴んできた。


「あなた、もしかして空松って名前じゃない?」


「え、そうですけど、なんで?」


 今までこの人に会ったことはないはずだ。それならばなぜ星上母は名前を知っているのだろう。

 しかし、名前を知っているにしても実際に誰かわかっているわけではなさそうだった。どういうことなんだろうか。


「美麗ったら家で学校の話をするとあなたのことばかり話すのよ。他にはないのってぐらいに」


 信夜はなんだか恥ずかしくなって目を逸らした。


「いつもありがとうね」


 星上母は嬉しそうに笑っている。

 友達であることぐらいきっと他の人でもできる。しかし、あんなことがあったからこそ嬉しく思っているのだろう。


「そっか!お見舞いに来てくれたのね⁉︎どうぞ上がって」


 信夜は手を引かれた。その力は思っていたよりも強い。

 それよりも、お見舞いに来たとは一言も言っていないのにこんなにあっさり家に上げようとして大丈夫なのだろうか。


「あの、自分は・・・・・・」


「いいのよ。気にしないで」


 勢いに押されて信夜は家の中へと入れられた。

 中はシンプルな作りになっている。特徴的なものは大して見当たらない。強いて言えば、匂いがあまり信夜の嗅いだことがないものだった。

 いい匂いであるのは確かだが、どんな匂いなのか香水などあまり気にしたことのない信夜にはわからなかった。


「美麗は二階の部屋にいるわ。会いに行ってあげて」


「いや、勝手に入るわけには。休んでるかもしれませんし」


「あなた、ちょっと気にしすぎじゃない?もっとガツガツ行っていいのよ?」


「そう言われても」


 気にしがちなのは自覚していた。それでも、やはり気にせずにはいられない。友達を失うのは怖いことであると思い知らさせたから。


「わかったは、一緒に行きましょ?それでいいでしょ?」


「いや、そういう問題じゃ」


 信夜の説得もあいなく、星上母はまた手を持って引っ張った。

 階段を登ると廊下があり、その壁にいくつか扉があった。どれかが星上の部屋なのだろう。

 星上母は止まることなくどんどん進んでいく。そして一番近い扉に手をかけた。


「入るわよー!」


 勢いよくドアを開ける。そして一歩中に踏み入った。相変わらず手を引かれたまま信夜も中へと入れられる。


「ノックぐらいはしたほうが」


 信夜が小さく耳打ちすると、ベッドから星上がおもむろに起き上がった。母親の声で起きたのか目を擦って眠そうにしている。


「お母さん、おかえり」


 そして俯いていた顔を上げて母親の顔を見る。するとゆっくりとその後ろにいる人物に目線を移動させた。


「っ!!??」


 星上は勢いよくベッドの中に潜ってしまった。掛け布団まで被り姿が見えないようになっている。

 やっぱりいきなり来たのは迷惑だったらしい。今はすぐに退散するのが吉だろうと信夜は少しため息をつく。


「やっぱり迷惑みたいなので俺はこれで・・・・・・」


 出て行こうとする信夜を星上母は手を引いて止める。

 この母親は何度手を引っ張るのだろうか。確かにそれが確実性が高そうなのはそうなのだが。


「大丈夫よ、心配いらないわ」


 この様子を見てだかを大丈夫だと思ったのだろうと信夜は不思議に思う。それでも、星上母の笑顔は尽きることはなかった。


「こら、せっかく来てくれたのに失礼でしょ?空松くん帰っちゃうわよ?」


 一度小さくビクッと動いてから星上はもそっと体を起こした。星上は気まずそうに信夜の方向を俯きがちで見る。


「いきなり来て迷惑だった、よね?俺は帰るよ」


「・・・・・・め、迷惑じゃないです」


 振り返ろうとしていた信夜の足を今度は星上の言葉が止めた。

 そうは言われても考えてみれば信夜はここにいたとしてやることは持っていなかった。そのためここにいたとしても仕方がない。

 ここに来たのは無事なのかどうかを確かめたかったということでそれ以降のことはどうしようかなんて考えていなかった。

 立ち止まるがそれだけで動けない。この後どうしたらいいのかわからないまま呆然とだけした。


「あ、そうだ。私まだ買い物途中なんだった。あとはお二人で仲良くどうぞ」


 星上母は後ろに回り込み、信夜の背中を押してベッドの横へと移動させる。そして、部屋に置いてあった椅子を持ってきて座らせた。

 星上の顔は真正面から見れていないが赤くなっている。きっとそれほど体調が良くないのだろう。寝たほうがいいのだろうが側にいられては寝にくくないだろうか。


「じゃあね。私はお粥の材料買ってくるから」


 母親はそれだけ言い残し部屋を去っていった。

 しばらく沈黙が残った。どちらも口を開こうとしない。星上は布団にくるまり、信夜はその方向に顔を向けながらもどこを見ればいいのかと目線を少し泳がせていた。

 ただ時間が過ぎていく。どれだけだったのかもわからず、それが速いのか遅いのかさえわからないまま覚悟を決めるために時間を使った。


「星上さん、大丈夫なの?」


「・・・・・・うん」


 少し間を置いてから返事がくる。しかし、依然として顔を向けてはくれなかった。


「今日、休みみたいだったから心配してたんだ」


「・・・・・・そっか」


「ごめんね。急に来て」


「それは、いいの。心配してくれてありがとう」


 星上は首まであった布団をさらに上にする。布団が顔にかかり始めた。


「どういたしまして。何かできることがあったら言って。力になるから」


 星上の動きが一瞬止まった。そして、もぞっと顔を信夜の方にする。

 口元まで隠れている顔は、まだ赤かった上さらに赤くなっているように信夜は感じた。


「・・・・・・なんでも?」


 星上の質問に信夜も一瞬思考が止まる。

 なぜ、こんなことを聞くのだろうか。わざわざ聞いてきたのだから頼みづらい何かがあるのかもしれないと信夜は思った。

 何かはわからなくともできることがあるならしてあげたいと信夜は思う。


「俺ができることなら」


 星上は顔をさらに布団にうずめる。目の下まで顔は見えなくなった。

 星上の顔の横で布団を押さえていた片手がゆっくりと横へ移動し、それは指を開いて信夜の前まできた。


「どうかした?」


「・・・・・・」


 星上からの返事はない。この状況から察してほしいということなのだろう。

 手は開かれて少し上下に揺れた。

 もしかすると手を繋ぎたいのだろうか。しかし、男子にそんなふうに触られて平気なものなのか。


「手、繋ぎたいの?」


 顔を逸らし、横目で信夜を見て小さく頷く。

 信夜は躊躇いながらもその手を取った。

 その手はあったかいを超えて熱いように感じた。それは熱があるようだから当然かもしれない。その熱が伝わってか信夜の手も熱くなっていくように感じる。


「今日の学校、どうだった?」


 星上から質問が飛んできた。

 今日は驚きのことがあったが、まだここでは言わないほうがいいだろう。今、また刺激してしまえば熱で弱っているのも相まって深く傷つけてしまうかもしれない。

 しかし、いつかは言わなければいけないだろう。その事実を知っていることを。知っていることに責任を持つべきなのだろう。

 そして、できれば仲直りに協力したいと言いたい。もちろん星上がそれを望めばの話ではあるのだが。


「今日もあんまり変わらなかったかな。ちょっと珍しい人と話したぐらい?」


 あの二人と話をしたこと以外はあまり変わったことはない。強いて言えばまた一人で帰る日になったぐらいで。


「・・・・・・そうなんだ」


 手を引かれて腕が布団の中へと入っていく。そして星上が横を向くと信夜の手が触れている接触面が増えた。両手で握られている感覚がそこにあった。

 信夜は椅子をベッドに近づけて前のめりになった姿勢からまだましな姿勢にする。


「・・・・・・誰と話したの?」


「えっと」


 信夜は返答に困ってしまった。

 できれば嘘は言いたくなくて少しだけ言ってしまったのがミスだったのだろう。

 言ってしまえばなんとなく勘付かれるかもしれない。ここで言ってもいいのだろうか。


「ごめん。やっぱりなんでもない」


 信夜が悩んでいると先に星上が質問を取り下げた。代わりに手に込められる力が強くなる。

 助かったがなぜ質問を取り下げたのだろう。そもそもなぜそんなことを聞いてきたのだろうか。やっぱり気になったから聞いてきたのだろうに。


「何かあった?」


「ううん。なんでもないの。それよりも今日は来てくれてありがとう」


「それはさっきも聞いたよ」


 不思議だなと思いつつ信夜は微笑む。星上もそれに呼応するように笑った。

 それから他愛のないような話を二人で話す。どれだけの時間が過ぎたかはわからなかった。


「ただいまー」


 扉が急に開いて母親が入ってくると星上は驚いたように体を震わせて急いで信夜の手を離した。信夜もその手をすぐに引き戻す。


「あらー。何かあったのー?」


「お母さん。入ってくる時はノックして!」


 今日一番大きい星上の声が響く。母親は「ごめん、ごめん」と軽く謝った。

 信夜は椅子から立ち上がる。


「それじゃあ、これぐらいで失礼します」


「え?もっとゆっくりしていけばいいのに」


「でも・・・・・・」


 星上の方を見ると星上も頷いている。

 しかし、これ以上はできることと言っても何もないし、風邪には寝ているのが一番だろうからその時間を取ることになるかもしれない。母親も来たからお役御免だろうと信夜は思っていた。


「そうだ。空松くん、料理できる?」


「え、多少なら」


「そうなの⁉︎じゃあ、お粥作ってあげたら?」


「いや、でも」


 星上だって母親が作ったものが食べたいだろう。どれぐらい料理がうまいかもよくわからない人より作ってもらったほうが安心なような気がする。


「いいから、ほら」


 母親に引っ張られて連れていかれる。星上の方を見るとどこか上の空のような状態だった。

 部屋から出るとドアが閉められ、母親の手から解放された。母親は先陣を切って歩く。信夜はそれに続いて歩いた。


「ねぇ、一つ聞いてもいいかしら」


「なんでしょう」


「ふふっ、そんな他人行儀じゃなくていいのよ」


 そうは言われても初対面に加えて友人の母となると信夜は緊張してしまっていた。

 明るい性格なようで離しやすくはあるのだが。


「美麗と仲良くしてくれてありがとね。ちょっと心配してたの」


「・・・・・・そうなんですか」


 信夜は返す言葉がすぐに見つからなかった。


「でも、気をつけてね。あの子、嫉妬深いところあるから」


「え?」


 母親のセリフに信夜は心底驚いた。

 星上にそんな一面があるなんて知らなかった。もしかしたら気づいていないだけなのかもしれないが、本当にそうなのだろうかと疑問に思うほどに。母親が言うのだから信憑性は高そうなのだが。


「ほんとよ。だから気をつけてね」


 気をつけてと言われてもどう気をつければいいかわからぬまま信夜はとりあえず肯定する。

 それよりも質問はどこにいったのだろう。


「それでね。質問なんだけど。君はあの子にあったこと知ってるの?」


「・・・・・・大雅さんとのことですか?」


「あら、知ってるみたいね」


「今日知ったばかりですし詳しく何があったかは知りません」


「そうなの」


 どうやら母親も認知していることらしい。

 星上母の顔は見れず、今どんな表情をしているのかわからない。でもきっと明るい顔ではないだろう。それを背中が物語っているように感じた。


「あの子、あれから塞ぎ込んじゃってね」


「あの、できれば教えてくれませんか?何があったのか。本人には聞きづらくて」


「どうして聞きたいのかしら」


「できれば、解決してあげたいんです。力になってあげたくて」


 返答に迷っているのか、すぐに答えが来ない。

 さっきまでの明るい雰囲気が嘘のように辺りからは消えていた。


「それは美麗が望んだこと?」


「それは、まだ聞けていません」


 そう、まだ本人がそれを望んでいるかはわからない。でも、あれであそこまで落ち込んでしまうのなら、きっと心の中でまだわだかまりが残っている。それをどうにかしてあげたい。


「それでも、あれだけ思い詰めてしまうのなら、まだきっと思うところがあると思うんです。大雅さんからは聞きましたがあの人はどうにかしたいようでした。だから、きっと星上さんも」


「・・・・・・あなたは優しいのね」


 振り返って星上母は優しい口調で言う。その目元も柔らかい印象を持たせていた。


「いいわ。教えてあげる。あの子たちに何があったのか。私の知っている範囲で」

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