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学校の隠れ美少女と今日も喋る  作者: 粗茶の品
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作戦会議


 信夜は軒下に入ると傘を閉じて近くの自動ドアからショッピングモールの中に入った。

 ここは信夜の家から比較的近所で、今日訪れた理由は放課後、誘われた件の集合場所がここだったからだ。確か、フードコートの辺りで集合だと伝えられた。

 信夜はどこかの店に入ることなくどんどん進んでいく。歩いていると普段訪れないため感覚でしかないが雨の影響からか人が少ないように感じた。平日とはいえ、夏休みも近く、ほとんどの学校がすぐ終わる頃だろうからもう少し人がいるものだと思っていた。

 進み続けて目的地の近くまで来るとその一角に二人の姿が見えた。二人は何やら食事をしているように見える。


「あ、きたきた。おーい」


 近づいていく信夜に気づいたらしく西平が声をかける。それに反応して磯立も振り向いた。


「珍しいな。お前が集合時間に来るなんて」


「遅れてないから許してくれ」


「別に怒ってないって」


 磯立が笑いながら言う。

 今はちょうど集合時間ぐらいの時間だ。信夜は普段待ち合わせをするとその時間よりも早く着こうとするが今日は遅れてしまった。

 星上を追いかけるために傘を閉じて走ったから全身びしょ濡れになったからだ。帰ったあと、体を拭き、鞄に入っていたものを乾かすために干していたら時間がギリギリになってしまった。

 帰った直後に連絡が来て集合場所等を知ったが、直後にわざわざ変えてもらうのも申し訳ないとかなり急いで終わらせてきた。

 午前までの授業だからカバンの中身が少なかったのが幸いだ。


「俺も何か頼んでくる」


「わかった」


 信夜は立ち並ぶ店の方へと歩いていく。

 急いできたからまだ昼食を取っていない。ご飯でも一緒に食べようとメッセージの端に書いてあったから家で急いで食べようとは思わなかった。

 しかし、お腹は空いていたらしく、二人が食事をしているところを見るとそれが一気に顕著になった。

 並んでいる店を一回さっと見る。

 有名なチェーン店が多く、そうでない店は少ないわけではないと思うがそういう印象を持ってしまった。チェーン店のインパクトが大きいのもあるのかもしれない。

 なんとなく気分でハンバーガーを選んで商品を受け取ってから席へ戻る。二人はもう半分ほど食べ終わっていた。


「別に急がなくていいからな?」


「じゃあ、お言葉に甘えるよ」


 磯立に返事をしてから同じテーブルの椅子を引き出し座る。


「ところでなんだけどさ」


 包み紙を開いて食べ始めると磯立が何やら話し出した。


「どうしたんだよ」


 西平が一旦食事をやめて返事をする。


「二人は夏休みって空いてるか?」


「まぁ、そんなに予定はないけど」


 西平はすぐに返答した。あまりにも不思議なのか首が若干傾いている。

 磯立が軽く頷くと二人揃って信夜の方を向く。どうやら回答を待っているらしい。


「俺も確定してるのはないかな」


 夏休みもすぐそこといえそうなレベルまで近づいているが明確に決まった予定はない。

 前にこんな話をして星上が誘ってくれると言っていた気がするがそれの進展もない。


「いや、もしかしたら誘うことになるかもしれないなと思って」


 なぜこんなことを聞いたのか疑問に思っていたのが伝わったのか磯立は話した。


「そんなの別に言わずともその時誘えばいいのに」


 本当にその通りだと信夜は西平の意見に同意して頷く。

 別に今言う必要はないだろう。特段決まったものがあるわけではなさそうだし。


「なんでそんなこといちいち聞くんだよ」


 西平の問いに磯立は俯く。

 何か言いづらいことでもあるのだろうか。もしかしたらそれを話すために今日は集められたのかもしれない。


「実は、だな」


 覚悟を決めたような表情を上げて磯立は口を開く。そこに信夜は「待った」と一旦止めた。


「それはここで話して大丈夫なやつか?」


 ここは多くの人の目がある。今近くに人がいるかと言われたらいないがいつ誰が来るかもわかったものではないだろう。

 誰かに聞かれるかもしれない状況でそれは聞かれてもいいものなのだろうか。


「それは大丈夫だろう。周りに人もいないし。空松は心配しすぎだって。それに聞かれたら聞かれたで諦めがつくかもな」


 本人がそう言うのなら信夜はそれ以上止めることはできなかった。

 心配しすぎだと言われると少しぐさっとくるものがある。確かに心配性な面があるところが出てしまったなと信夜は自覚した。


「それで一体なんなんだよ」


 待ちきれなくなったのか西平が急かしてくる。磯立は正面を向いて一呼吸置いた。


「最近、俺、雲川と一緒にいると思うんだけど」


「うん、そうだな」


「確かに」


 西平の肯定のあとに信夜も続く。

 磯立は確かに雲川と一緒にいる時間が多くなった。学校では二人でいるところの方が授業中以外では多い気がする。


「それで、雲川なんだけど・・・・・・たぶん俺のこと好きなんだと思うんだよな」


 信夜は自分でもわかるほど一瞬ぽかんとした。少し顔を横にずらしていると西平も同じようなことになっているような表情を浮かべている。


「それは、自慢かなにかか?」


 西平が若干顔をひきつらせながら言う。

 自慢と取ってしまうのも仕方ないと思うが、信夜は正直磯立がそんなことをするとは思えなかった。おそらく西平も本心ではそうなのだろう。

 だからきっと、ここからが本題なのだ。


「そうじゃなくて、俺は雲川を諦めさせたいんだよ」


「それはどうしてだ?」


「それは」


 西平の問いかけに磯立は一瞬ためを置いた。


「二人は知ってると思うけど、俺、前に大雅さんに告白したじゃん?振られたけど、俺まだ好きなんだよ」


 それは確かに知っている。知っているが信夜には一つ引っかかるところがあった。

 二人はということは西平も知っているということなのだろうか。それは知らない事実だった。


「知ってたの?」


「あ、うん。というか磯立に直接言われたし」


 西平の方を向いて聞くが冷静に返事をされた。磯立は「それで」と続けたため、二人揃って磯立の方を向いた。


「自分のことを好きだと知っておきながら、自分が好きな相手がいるまま接するのは良くないと俺は思うんだよ」


 そんなものなのだろうか、と信夜は疑問に思った。誰かを好きなまま接するのは悪いことなのだろうか。

 恋愛的な意味で好きになった人がいない信夜にはよくわからなかった。


「それは駄目なのか?これから先好きになる可能性っていうのはないのか?それを先に潰すっていうのは」


「ごめん。俺は雲川のことは友達としか見れないし、それが俺の恋愛的価値観なんだ。酷いことだとは思ってるよ」


 信夜の質問に磯立は声色を下げて返す。

 恋愛の価値観を持ち出されたら信夜は引き下がることしかできなかった。その価値観は人によって違うことをよく知っていたから。


「それで、今日二人を呼んだのはどうやったら諦めてくれるのかアドバイスが欲しかったからだ。できるだけ傷つけたくはない」


 磯立の発言に信夜はまた疑問を持った。

 そのアドバイスが欲しいのなら自分は不適任だと信夜は思う。恋愛などしたことのない信夜は何を言えばいいのかわからなかった。

 しかし、呼ばれたのだから何か力にはなってあげたい。

 信夜は少し考え込む。何も思い浮かばず横をチラッと見てみると西平は腕を組んで考えている様子だった。


「そうだ!誰か他に彼女がいるってのはどうだ?」


 突然閃いたのか勢いよく西平は言う。

 それは、どうなのだろう。他に彼女がいてこんな仲良くして大丈夫なものなのだろうか。


「いや、あれだけ一緒にいるとな。それに万が一誰かと聞かれた時、代わりの人なんていないし」


 磯立も似たような結論に至ったらしい。西平は俯いてまたもや考え込む。

 すると今度はすぐにぱっと顔を上げた。


「代わり、ワンチャン紹介できるかも」


「誰?それ」


 磯立は訝しげな顔を浮かべる。


「同じ学年に荒山ってやつがいるだろ?あいつの元彼女。なんか最近別れたらしくて今フリーなんだよね」


 信夜は驚いた。

 荒山については誰かは知っている。しかし、別れ話など聞いたことがなかった。なぜ西平は知っているのだろうか。

 とは言っても学校の有名な話題もしょっちゅう知らないことがあるのでいつものことかと信夜は思った。

 しかし、別れてすぐに付き合うというのは向こう側にも磯立側にも不都合なのではないだろうか。向かうは軽いやつだと思われるかもしれないし、磯立は手を出してくるやつだと思われるかもしれない。


「いや、それは最終手段にしようかな。そっちにも悪いし」


「そうかー」


 西平はなぜか残念そうな顔をする。


「じゃあ、何も浮かばないな」


 両手を上げて西平は諦めを示した。信夜は考えてはいるがとっくに行き詰まっていた。


「まぁ、そんな簡単にいかないか」


 磯立は軽くため息をつく。


「それにしても、いいねぇ、他人から好かれてるっていうのは」


 他人事のように西平は言う。


「そういえば、お前は彼女できたのか?西平」


「できてませんけどー?何か問題でもー?」


 嫌味らしく言う西平に「まぁ、まぁ」と磯立が宥める。


「空松はいないのかよ、彼女」


「え?俺?そりゃいないけど」


 西平に突然話題を振られて若干混乱したが信夜はすぐに返事をする。

 彼女はいたことがない。それはおそらく磯立は知っていることだろう。


「好きなやつぐらいはいないのか?」


「恋愛的意味で好きな人はいないな」


「はいはい。あと、普通友人としての好きを人前で好きとはあんまり言わないからな?特に女子に対しては」


「え?」


 それは駄目なことなのだろうか。友達としても好きは好きなんだし、それを言うこと自体は間違いではないと思うのだが。

 そんなに言わないことなのだろうか。


「お前、友人の好きをそのまま言っちゃ駄目だぞ?もしかして誰かに言ったのか?」


 西平に問い詰められて信夜は顔を背ける。

 身に覚えは確かにある。それも今日の話だ。友人としての好きをあんまり『好き』だと言わないなんて考えていなかった。

 しかし、おそらく関係値的に恋愛的好きではないと察してくれているだろう。

 西平にすごいじっと見られている。


「やめてやれ。こいつにあんまり恋愛の基準みたいな話をしてやるな」


 視線を送り続ける西平を磯立が止めてくれる。


「なんでだ?」


「色々あるんだ。あいつにも色々」


「・・・・・・そうか」


 西平は引き下がった。

 信夜の事情については現状おそらく信夜以外で知っているものは同じ学校内だと磯立だけだ。

 そしてそれはあまり口に出したくはない。思い出したくすらないようなそんな記憶だった。

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