朝の出来事
「昨日は、ごめんなさい」
登校の最中、信夜は突然星上に謝られた。信夜は心当たりが見つからず少し戸惑ってしまう。
「昨日って何かあったっけ?」
「その、図書室のこと」
「あー」と信夜は小さく頷いた。
しかし、それは謝られるようなことなのだろうかと信夜は疑問に思った。確かに突然あんな様子になったものだから心配はしたが、別に謝る必要なんて無いと思う。
「別にいいよ。そんな言われることはどのことでもないし。でもまぁ、今度何かあった時は、話せそうだったら話してよ。できる限り力になるから」
「・・・・・・ありがとう、ございます」
星上は俯いて小さな声でお礼を言った。
信夜は前を向いて歩く。次第に学校に近づき、生徒の姿も増えてきた。
その生徒の多くは複数人で登校しているように見える。信夜も最近はその中に入っていた。その前まではずっと少人数の方だったはずなのだが。
「おはよう」
「おはよう、磯立」
信夜は後ろから挨拶してきた磯立に返事をする。
磯立のそばを見るとそこには雲川もいた。どうやら一緒に登校してきたらしい。
「今日は早いな」
「ああ、ちょっと早く起きたからな」
磯立が普段来るのは教室に入ってくる時間から逆算してもう少し後はずだ。それなのに今日は早い。
しかし、そんなことはよくあることだろう。特に問題にすることでもない。できるのはせいぜいちょっとした会話の話題にするぐらいだ。
「それにしてもちょっと暑くなってきたな」
「まぁ、夏ももうちょいだから」
最近は梅雨の気配もおさまってきて、代わりに夏が気配を強めている。
それにしても毎年少しずつ暑くなってきているような気がするが気のせいだろうかと信夜はふと思った。
少し嫌な視線を感じて信夜が後ろを横目で見て見ると雲川が睨みつけてきていた。まるで邪魔だと言わんばかりに。
「ほんと、最近暑いよね」
顔を逸らすため星上の方を向くとなぜか星上も不機嫌そうな顔をしていた。
「そうですね」
星上は信夜とは反対方向を向いてしまう。
星上はこの短時間に何があったのだろうと信夜は疑問に思った。
気に触るようなことをしたのかもしれないが信夜は何がそれに該当するのかわからなかった。
「ど、どうかした?」
「なんでもないです」
星上は心なしかいつもよりもはっきり意見を言っているがいつもより機嫌が悪そうだ。
「じゃあ、俺たちは先に行くわ」
「あ、ああ」
磯立は信夜に軽く手を振って去っていった。雲川はそれに遅れずついていく。
二人はいなくなったが星上は依然、不機嫌そうなままだ。
「何かしたなら、ごめん」
「別に何もないです」
そう言ってくれてはいるが信夜には何かあるような気がしてならなかった。しかし、思い返してみてもそれが何かわからない。
「ごめんよ」
信夜は小さくそう言うと気まずくなって正面を見て少し黙って歩いた。すると、突然横から服に力がかかった。
横を見ると星上が指の先で服をつまんでいる。
「どうかした?」
「あ、えっと、その・・・・・・最近暑いですね」
信夜は星上のその発言に呆気に取られてしまった。
どうして急にその話題に戻ったのだろう。それに星上は焦っているようにも感じる。
「えっと、そうだね」
信夜が言うと星上はそっぽを向いてしまう。しかし、服はまだ持たれたままだった。
「星上さんは夏休み何か予定があったりするの?」
夏休み、というとまだ気は早いが、それでもそれなりには近づいてきている。人によっては何か予定があったりもするかもしれない頃だろう。
いや、やっぱりまだ早いだろうか。
「・・・・・・何もないです」
信夜の問いかけに少し間を開けて返事がきた。
「俺もなんだ。今の所何もなくてさ。何かできることもほとんどなさそうだし」
家族でどこかに一度行くというのは全員の都合が合う日があればありそうだがそうでないなら今年は何もないだろう。
きっといつものように過ごす事になる。
「・・・・・・なら、誘ってもいいですか?」
「もちろん」
信夜は断る理由もないためすぐに返事をすると星上は勢いよく信夜の方を向いた。
そして何やら嬉しそうな雰囲気を醸し出している。
「じゃあ、誘いますね!」
さっきまでとは急激に雰囲気が変わったが信夜はそれに少しほっとした。あまりあのような雰囲気は心地いいものではないと思う。
「それと、いつまで持ってるの?」
「え?」
信夜が言うと星上は視線を下げて自分の服をつまんでいる手を見た。
「ご、ごめんなさい!」
星上は勢いよく手を離す。
「俺は別にいいけど」
ここは周りによく見られているしそうなると星上にとって不都合かもしれない。
信夜はそう思いながら星上を見た。




