帰り道
階段を降り、廊下を抜け、下駄箱まで来ても星上の姿はなかった。
やはり先に帰っているのではないだろうか。
出会うことすらないのなら磯立に先に帰ってもらった必要は大してないことになってしまうかもしれないがそれも仕方ない。
まだ学校にいると言うのなら待ってみてもいいかもしれないがそれは迷惑かもしれないし、そもそもいるかどうかもわからないからなんとも言えない。
どうしたものかと考えながら信夜は靴を履き替えた。そしてそのまま外へと出る。その瞬間、少し強めの風が校舎の中へと流れ込んだ。
「こ、こんにちは」
突然話しかけられて信夜は驚く。横を向くと髪を下ろしている星上がそこには立っていた。星上はドアの横にある壁の前にいたせいで校舎内からでは見えなかったらしい。
それにしてもどうしてこんなところに立っているのだろうか。普通に帰るだけなら雨が降っているわけでも人が混雑しているわけでもないからおそらくここに立つなんてことはないだろう。鞄から何か取り出してでもいたのだろうか。
邪魔になると思い、信夜はドアの前から移動する。
「こんにちは」
「は、はい」
星上は少し目を左右させながらチラチラと信夜を見る。
「どうかした?」
「あ、は、はい⁉︎えっと・・・・・・」
今度ははっきりと顔を逸らす。
何か言いづらいことでもあるのだろうか。何か顔についているとか。いや、それぐらいなら言っても問題ないだろう。
信夜はどうしたらいいのかわからなくて困ってしまった。
「その、一緒に帰ってもいいですか?」
星上は横目で信夜を見たと思いきやすぐに離してしまった。
「いいよ」
星上は勢いよく顔を向ける。その顔はなんだか明るくなっているように感じた。
「いいんですか?」
「いいよ」
むしろ信夜には断る理由が見つからなかった。何か違うが悪くなるわけでもない。
それにしてももしかしてこれを言うためにここに立っていたのだろうか。いや、偶然出会ったから誘っただけだろう。
信夜が「それじゃ、行こうか」と言うと星上は横について二人足並みを揃えて歩き出した。
それからいつもの道のりを前と同じように歩いて帰る。下校中にしたのはなんの変哲もないただの世間話だ。
やがて歩き続けるといつもの分かれ道に着いた。
「じゃあ、また明日」
「っ!はい、また明日」
信夜の言葉に星上は明るく返す。
驚いたような雰囲気を一瞬漂わせたが何か変なところでもあっただろうか。
さよならの言葉を言ったつもりだが少し待っても星上はその場から動こうとしない。
「どうかした?」
「その、また一緒に・・・・・・な、なんでもありません!」
星上は急ぎ足で足を翻して帰っていく。
どうかしたのだろうか。あの言葉に続くものと言えば何があるだろう。少し考えてみるがこれと言ったものが浮かばない。
そういえば聞かなかったが結局磯立はいても平気だったのだろうか。やっぱり聞いておいた方がよかっただろうか。しかし、聞かなかった理由の一つだが星上は聞いても気を遣って本心を言ってくれない気がする。
まぁ、明日帰ろうと誘われたわけでもないし、今日は偶然出会ったから誘ってくれただけだろうから問題はないだろう。それに磯立との関係性も一緒に帰らないぐらいで変化はしない、はずだ。
もしまた誘われたのならその時にどちらかあるいは両方に相談すればおそらく大丈夫だろう。
もしかしたらあの言葉の続きは「一緒に帰ろう」だったりするのだろうか。しかし、聞けていない以上信夜は断言することはできなかった。




