勇気と決断
「なぁ、俺、今日告白してくるわ」
「そっか応援してるよ」
二人以外誰もいない教室で空松信夜は友人の磯立柳太の宣言を軽く流した。
磯立は苦笑いを信夜に向ける。
「誰にか聞かないのか?」
「じゃあ、誰なんだ?」
聞いたところで結果が変わるわけじゃないからただ応援だけしようと信夜は思っていたがわざわざ問われたので聞いてみる。
本当に好きになってその人とお近づきになりたいと思っていたのなら誰かなんて信夜はどうでもよかった。できれば怪しくなさそうな人がいいとは思っていたが。
磯立は小学校からの付き合いだが昔からモテるとまではいかないが評判は悪くない。今までも何度か告白されたと報告してきたこともあった。
しかし、依然として磯立の付き合った人数はゼロ。その理由の全てが相手を恋愛的意味で好きになれていないからだった。
だからこそ、磯立側から好きになった今回は応援したいという気持ちが信夜には強くあった。
「それはだな。大雅さんにだ」
信夜はなぜか得意げな顔をする磯立に驚いた。
大雅明日華それはこの学校のマドンナ的存在だ。
文武両道、容姿端麗、家柄良しの非を全く打てないようなまるで創作作品から飛び出してきたかのような人物。
そんな大雅はこれまで告白されてきた人数は数知れず、そのほとんどを断ったという。
信夜はまさか大雅だとは思っていなかった。なぜなら磯立と大雅が一緒にいる場面などほとんど見たことがなかった。
だからといって応援する気がなくなったわけではない。しかし、少し気が早いんじゃないかという気持ちを否定することはできなかった。だがおそらくこれには事情があるのだろう。
これではダメだと信夜は無理やり気持ちを元に戻す。
この話を切り出す前、磯立は何か考えているような様子だったが、おそらく直前まで告白するのか考えていたのだろう。相手が相手な故に。
「やっぱり無理だと思うか?」
「関係ないだろ、そんなこと」
好きになってしまったのだからそれはしょうがないだろう。例え高い壁だったとしても磯立は伝えることを決意した。磯立の人柄を考えるとそれはきっとかなり苦悩した上でだ。
なら友人としてすべきことはそれを信じて見守ることだろう。
成功したなら精一杯祝福してあげて、失敗したなら目一杯慰めてあげる。きっと第三者ができるのはそれぐらいだ。
「それより、それってどうやってやるんだ?」
「今日話したいことがあるから放課後来て欲しいって頼んだんだ」
つまりはこれで来ていなかったらもう振られたも同然だということなのだろうか。
噂に聞く人柄的に内容を述べず、話があると言っただけなら来てくれそうなもののようには思う。しかし、告白されなれてる相手からするとここまであからさまで大丈夫だろうかという不安は残る。
磯立は真っ直ぐでいいやつだが以前からずっとどこか不器用なところがある。
「そろそろ時間だから、当たって砕けてくるよ」
「ついでに相手の心も砕いてこい」
ははっと、磯立は軽く笑う。
大丈夫かどうかはわからない。でもきっと後悔しないことが一番大切なのだろう。
「じゃあ、行ってくるよ」
「行ってこい」
磯立は廊下へと出ていった。
信夜は今は待つことしかできない。どこでやるかも聞いていないからこっそり見に行くこともできない。
信夜は一人残された教室で窓の外を眺めた。