休み明け
学校に登校し、自席に座って授業までの時間を潰す、そんななんの変哲もないいつもの行動を信夜は取っていた。
おそらく大抵の生徒がそうだが休み明け最初の学校というものはあまり気分が上がらない。特に朝は。
信夜は気怠げに机に突っ伏した。
「おい、空松、ちょっといいか?」
唐突に最近聞くことのなかった声が耳の中へと入ってくる。信夜はその声を聞いて信夜はおもむろに顔を上げた。
机の前には元クラスメイトの西平奨太が立っている。
「なに?」
西平は顔を信夜に近づける。
「その、お前が金曜日一緒に帰ってた子って誰?」
耳打ちするように言うと西平は顔を下げた。
どうやら西平は星上について知りたいらしい。しかし、どうして星上について知りたいのだろうか。
理由もわからない以上、教えてしまってもいいのだろうかと信夜は考え込む。
「やっぱり彼女とかなのか?」
信夜は予想の斜め上の質問にキョトンとしてしまった。
何をどうすれば星上と自分が恋人関係と思うのだろう。そんなふうに見えていたというのだろうか。
どうしてこうも恋愛脳な人が多いのだろう。西平はいつも「彼女欲しい」と言っていたから恋人はいないと思っていたが実はいるのだろうか。
「違うけど」
「嘘つくなって。俺、知ってんだぞ。お前、その子と土曜日に手を繋いで歩いてただろ」
「なんで知ってんだよ」
「たまたま見たんだよ」
一体いつ見られていたのだろうか。と言っても手を繋いでいた時間なんて僅かなのだから絞り込むことはできる。
しかし、見られていたなんて信夜は全く気付かなかった。
「それで、どうなんだよ?」
西平はわくわくした顔をこっちに向けてくる。
「だから違う。それに手ぐらい友達なら繋ぐだろ」
友達であれば手を繋ぐくらい不自然なことではないと信夜は思う。
それくらいを許せる関係を友達と言うのではないのだろうか。
「ちぇ、わかったよ。頑張って探すよ」
「だから違うって」
信夜の言葉を無視して西平はそう言い去っていった。
全くわかっていないような気がするが聞く耳を持たないらしい。
恋人関係などと勘違いされていては星上に迷惑がかかるかもしれないから誤解は解いておきたいが今はそれは難しそうだ。
西平の動きを追いかけると一人の女子生徒がこっちに向かってきている。
「その、おはようございます」
「おはよう」
女子生徒、星上は会釈しながら挨拶する。
星上の髪は下ろされていた。
今日は偶然星上と出会ったので一緒に登校したがその時も髪は下ろしていた。つまり、髪を上げるのはどんな条件かわからないがあの髪型へと変更したわけではないのだろう。
それにしてもさっき西平は探していた本人とすれ違ったわけだが気付かないものなのだろうか。
「どうかした?」
「そ、その、時間があったので」
星上はそこで言葉が詰まる。
つまりは退屈凌ぎにでも来たのだろう。それに選ばれるなんて信夜は光栄だと思った。
「ごめん」
「え、なんで謝るんですか?」
星上はわかりやすく困惑した。
確かにこんな急に謝って仕舞えば困ってしまうのも無理ないだろう。
「いや、俺たち付き合ってるみたいな勘違いしてる人がいるみたいでな」
この言葉を聞いた星上の顔がみるみる赤くなる。
やはり、そう思われては迷惑だったらしい。逆に迷惑でない人などおそらくいないだろう。
「そ、その、私、たち・・・・・・ごめんなさい、戻ります!」
星上は早歩きで教室を出ていく。
そこまで嫌だったとは信夜は申し訳ない気持ちに襲われた。
このまま関係が悪化することなんてないといいけど、と信夜は心底思う。
「おはよう」
星上が出ていった前側のドアを見ていると今度は後ろから声をかけられた。
入れ替わり立ち替わり今日はよく話しかけられる。しかし、今回はいつもの相手のようだ。
「おはよう、磯立。大丈夫か?」
信夜の問いかけに「大丈夫、大丈夫」と磯立は笑って返す。
しばらく休んでいたから心配だったが学校に来れるくらいには回復したようでよかった。
これ以上休みが長引くならそろそろ見舞いの一つにでも行こうかと信夜は考えていた。
「それより、さっきの子は?」
磯立が尋ねるさっきの人と言うと星上のことだろう。どうやら聞かれていたかはわからないが少なくとも見られていたらしい。別に問題などないが。
「ああ、友達だよ」
磯立は「ふーん」と星上ぎ去っていった方を見る。そして自分の机の方へ向かった。
信夜は磯立という日常の一部が帰ってきたことに安心して少し息を吐いた。




