家族の会話
「おかえりー」
信夜がリビングに足を踏み入れるとソファに寝転がっている遥香が言った。
「ただいま」
信夜はそう言いながら手洗い場の方に足を進めた。
そして、リビングに戻ってくると今度は遥香がちゃんと座っている。
「あら、おかえり。帰ってたの」
信夜と遥香がちょうど顔を見合わせたタイミングで母がリビングにやってきた。二人揃って一斉に母さんの方を向く。
「ただいま」
「今日はどこに行ってたの?」
母は興味深そうに聞いてくる。
普段信夜は休日にあまり外出しないから気になるのだろう。
「友達と遊びに行ってただけだよ」
「ふーん。そうなんだ」
母の視線が突然信夜からずれたので信夜はその先を追うと遥香が少し顔を顰めていた。
突然そんな顔をしてどうしたのだろうか。
遥香は信夜と目が合うと顔を逸らしてしまう。
「それより、ご飯でも作るの?」
「そう。買い出し頼んだお父さんもそろそろ帰ってくるはずだし、そろそろ始めようと思って」
母は気合を入れてキッチンの方へ向かう。
母がこれぐらいの時間から食事の準備をするのは休日だといつものことだ。
信夜は「手伝う」と言ってソファの上に鞄を置いて母の背中を追いかけた。
「ありがとう。じゃあ、とりあえず野菜の皮剥いてくれる?」
渡された野菜を受け取って信夜は包丁を握る。渡されたのは人参とじゃがいもだ。
信夜はいつもの手つきで野菜を剥き始めた。
「それで、そのお友達はどんな人なの?」
作業をしていると、自分がやっていることよりも複雑なことをこなしながら母は聞いてくる。
母はおそらく純粋な興味で聞いてきている。
なぜならおそらく友人と出かけたなんていうことはこのところなかった。学校の話もあまりしたことはない。母はそんな様子を見て友人はいるのと心配してきたぐらいだ。
母はそういうところがあって信夜も流石にそれは心配しすぎだと思っていた。
「普通の友達だよ」
「それは、いつもの子?」
母が言ういつもの子というのは磯立のことだろう。
信夜は大体友人がいるかと母に聞かれたら磯立のことを答えていた。母はちゃんとそのことを覚えていたらしい。
「最近仲良くなった人だよ」
「女の子?」
「なんでそんなこと聞くの?」
「あ、じゃあ女の子なんだ」
信夜は否定することができなかった。母の笑顔がどんどん明るくなっていっている気がする。
なぜ、女の子だと思ったのか信夜には見当もつかなかった。
ただの勘なのか、それとも何か根拠があるのか。母はこういうところに置いて妙に鋭いところがある。
信夜は物音が聞こえてその方向を向くと遥香がこっちに向かって歩いてきていた。
「なんで、教えてくれなかったの?」
「こういうのって全部言わなきゃだめなのか?」
家族には自分が仲良くする人のことは言わなくてはいけないのだろうか。信夜にはそこら辺の勝手がわからなかった。
「その子とはどういう関係なの?」
遥香とは反対側から母が尋ねてくる。その方を向くと母はもう違う作業に取り掛かっていた。
「友達だって」
答えるとすぐに今度は頭に違和感を感じた。
振り向くと遥香が頭に手を乗せている。
「何してるの?」
「いや、ちょっと」
ゆっくりと置かれた手が撫でるように動かされていく。
信夜は少しじっとしたが時間が経てば経つほどわからない度合いが増していった。
「あのー、何してるの?」
「いや、ちょっと」
遥香はまだ手を動かし続ける。隣で母さんが「うふふ」と笑い出した。
この時間は一体なんなのだろう。
信夜の作業の手が止まっているのだが、遥香がこうしているため再開することができない。
もう少し待つと遥香は少し満足げな顔をして手を退けた。
「今はこれで許してあげる」
一体何がだめで、何を許してもらったのかわからないまま信夜は「ありがとう」と述べる。
「今度、その子紹介してね」
そう言って遥香は元の場所へと帰っていった。
一体何をしたかったのだろうか。
信夜が作業に戻ると玄関が開く音がした。おそらく父が帰ってきたのだろう。




