後悔と幸福
家に帰ってきて部屋に戻った星上美麗はベッドに飛び込んだ。そして枕に顔を埋める。
今日のことを思い返すと美麗は顔が熱くなった。
発端は昨日自分が一緒に出かけようと誘ったこと。
それは明日も会いたいなんて思って咄嗟に出た言葉だった。
だから、行きたい場所なんて特になくて、家に帰ってからひたすら考えた。
何だったら満足してくれるだろう、何だったら変に思われないだろう、と。
そして絞り出したものが映画を観に行こうというものだった。それも今思えば変なような気がする。
しかし、空松は何も言うことはなかった。それは彼が優しいからということもあるだろう。
自分は彼の優しさに甘えてばかりだと美麗は思う。
彼は自分が話されているところを助けてくれた。自分が強く言えないところを彼はうまくカバーしてくれた。
それに、帰り道だってそうだ。あの時、手を繋いだのが嬉しくてもう一度繋ぎたいと思ってしまったのを彼は受け入れてくれた。
それがなにより嬉しかった。
彼の手は大きくて、なぜだかどこか優しい雰囲気を感じさせる手だった。
美麗は埋めていた顔を上げて自分の手を見る。彼と手を繋いでいた手を。
その手には彼の手の感触が残っている。
手を繋いでいる時間はとても幸せだった。ずっと繋いでいたいと思った。
でも、繋いでいると心臓が高鳴って、心臓が破裂するかのような気持ちになった。
あれ以上は我慢できなかった。それに何かが我慢できなくなりそうだった。
「はぁ」
美麗は大きなため息をつく。
今日はあまり空松の顔が見れなかった。
一緒にいることができたのだからもっと顔を見てお話ししたかったのに、手を繋いだことを引きずってうまくできなかった。いや、そもそもいつももあまり目を合わせることはできていないだろう。
美麗は急に不安になってきた。
彼に変な風に思われていないだろうか。
急に誘って、手を繋いでなんて言って。おまけに気づかれてないと思いたいが帰り際なんて「また明日」と言いかけてしまった。
自分がこんな欲張っていていいのかと美麗は心配になる。
美麗は彼に嫌われることはどうしても避けたかった。あんな気持ちにはもうなりたくない。
「会いたいな」
美麗は手のひらを見ながらぼそっと呟いた。
自分自身にそんなことを叶えようとする勇気もないことは知っている。だからきっとこの願いは無駄になるだろう。
美麗はそう思いながらまた今日のことを思い返した。
今のこの感情がなんなのか美麗にはわからなかった。
でも、今はこの幸福を噛み締めていたいと美麗は思う。
それと同時に学校が楽しみだと思った。
彼は今一体どんな気持ちなんだろうか。