お誘いに感謝を
信夜は今日も今日とて磯立が休みのようなので一人で昼食をしていたがどうやら本日は少し違うらしい。
弁当箱を鞄から取り出して食べる準備をしていると教室に星上がやってきた。
「一緒にお昼ご飯を食べよう」と遠慮がちに誘ってきたのだが、周りを気にしていたためいつもの階段まで移動するように提案し、現状並んで座っている。
「やっぱり、迷惑でしたか?」
隣で星上がおずおずと尋ねてくる。
まだ昼食に手を出していないからそう思ってしまったのだろう。
「ごめん、そういうことじゃないんだ。誘われると思ってなくてちょっと驚いてただけ」
よもや昼食に誘われるなど信夜は考えていなかった。
なんだったら自分から行こうかと少し考えていた。
そんなところに向こうから来たのだからなんたる偶然と心底驚いていた。
信夜は弁当箱を開いて箸で中身を掴む。
「お弁当なんですね」
「ああ、母さんが作ってくれるんだ。俺が作るとあんまり上手くならなくて。ほんと、感謝しかないよ」
星上は例の如くパンを持っている。それが星上のいつもの昼食なのだろう。
種類は変わっているが袋に入っているスーパーなどで買えるものであるということは同じ。
今日はおそらくメロンパンであろうか。
「料理するんですか?」
「母さんが忙しくて作れない時に作るぐらいかな。そんなに上手くないんだよね」
共働きであちらも忙しいだろうのに母親が弁当を作らないのはたまにしかない。わずかな時間を使って作ってその上に美味しいのだから感謝以外にするものがなかった。
信夜は時々料理を手伝ったりするがそれほど上手くはない。横で料理が上手な母親がいるから自分の不出来さがよくわかる。
「そ、そういえば、昨日、遥香?さんは義妹だって」
「ああ、親の再婚でそうなって、ちなみに母さんとは血は繋がってないんだ」
信夜と血のつながりがあるのは父親の方で母親ではない。だからお義母さんと呼ぶべきなのかもしれないがそれは些細な問題だろう。
前の母親も弁当を作ってくれた記憶がある。と言ってもかなり古い記憶で幼稚園ぐらいのものとなるが、正直あまり味は覚えていない。
でも、上手下手は関係ないのだろう。
「そう、だったんですね」
「気にしないで」
申し訳なさそうな顔を浮かべる星上に信夜は軽く声をかける。
気にしたって仕方がない。これはもう起こってしまったことなのだから。
それに今の環境はそれなりに気に入っている。もちろん前の母親のことも信夜は好きだった。
信夜は弁当の中身を口に運ぶ。するとそこには何度も食べた味が広がっていった。
横を見ると星上も食べ始めていたがすぐに口からパンを離した。そして信夜の方を見る。
「あ、あの。その明日って・・・・・・」
「明日?土曜日だけど」
今日は金曜日。つまりは明日明後日と二日休みだ。そのため大半の学生にとっては待ち望んだ日であろう。
「そうじゃなくて。明日って、その、空いてますか?」
星上はすごく遠慮がちに質問する。
「え?予定は特にないけど」
「じゃ、じゃあ、明日、会えませんか?」
少し前のめりになって階上は尋ねてくる。
明日というと何もなかったような気がするのだが何か予定でもあるのだろうか。一人だと都合が悪いようなものでも。
「できると思うけど、どうして?」
星上の乗り込んでいた体が少し下がる。
何か言いづらいことだったのだろうか。系統も何も掴めていないがこれ以上は踏み込まない方がいいだろう。
「いいよ。いつどこに行けばいい?」
「それは・・・・・・あとででいいですか?」
星上は俯いてしまった。
きっと自分でもまだよくわかっていないとか、詳しく決まっていないとか、そんな感じだろう。
そこまで急ぐべきことでもないので信夜は気にしなかった。
「わかった。じゃあ、今日一緒に帰れる?」
「あ、あの、はい。ぜひ」
ぜひと言うほどのものなのかはわからないが信夜はなぜか少し嬉しくなった。きっと心を開いてきてくれたことをそう思っているのだろう。
星上の顔を見ると口角が少し上がっているのがわかる。信夜もそれにつられて口角が上がった。
何もなかったはずの休みに突然予定ができてしまった。
それは信夜を言葉では言い表せない不思議な気持ちにさせた。
「その、帰りは待っててください」
「・・・・・・?わかった」
星上の言葉の意味を信夜は読み取ることができなかった。
今日は何か予定があって遅くなりでもするのだろうか。それならそうだと言うような気がするし、これも言いたくないことなのだろうか。
早く帰らないといけない理由もないので待つこと自体は構わないが信夜は今日一番不思議な言葉だと思った。




