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第八章

 ある日、王宮で開かれた舞踏会に招待され、エドワルドからアルメリアとセレナにドレスが贈られた。アルメリアにはシンプルな深い琥珀色のドレスだったが、セレナには彼女の髪の色に合わせた金の刺繍が入った華やかなピンクのドレスだった。アルメリアが一抹の不安を抱えながら向かった会場は、社交界の名だたる貴族が集う華やかな場だった。しかし、その華やかさは、彼女にとってはむしろ冷たい嘲笑のように感じられた。

「エドワルド様、どうか私と踊ってくださいませ。」

 会場の中央で、セレナが優雅に手を差し出す。それに応えるように、エドワルドは迷うことなくその手を取った。

「もちろんです、セレナ嬢。」

 まるでそれが当然のことのように、二人はファーストダンスを軽やかに踊り出した。ぴたりと息の合ったその舞に、周囲の貴族たちが感嘆の声を上げる。

「まあ、お似合いですこと。」

「やはりセレナ様とエドワルド様お二人でいると絵になりますわね」

 そんな声が、アルメリアの耳に突き刺さる。彼女は拳を握りしめ、どうにかして視線を逸らそうとした。

「アルメリア、何を突っ立っているの?」

 母の冷ややかな声が背後から聞こえた。

「あなたの婚約者なのに、なぜエドワルド様をほったらかしにするの? そういうところがいけないのよ。」

「……私は……。」

 反論しようにも、喉がひどく渇いて言葉にならない。その隣で、父も厳しい視線を向けていた。

「アルメリア、お前はもっと努力をするべきだ。せっかくレイモンド侯爵家との縁組が決まったというのに、このままでは不安が残る。」

「エドワルド様をもっと楽しませることを考えなさい。彼がセレナと話しやすいのは、彼女が気を配っているからでしょう?」

「少しはセレナを見習うことだ。」

 次々と浴びせられる言葉が、アルメリアの心を切り刻む。まるで自分がすべて悪いと言われているようだった。婚約者の気持ちが離れていくのを目の当たりにしながら、それでも彼女が責められる。

「お姉様、大丈夫?」

 セレナが心配そうに声をかけてくる。しかし、その瞳には勝者の余裕が漂っていた。エドワルドの腕に手を絡ませた彼女は、まるで勝ち誇るように微笑んでいる。

「誤解しないでくださいませ。お姉様は少し不器用なだけなのですわ。」

 まるで子供を庇うような口ぶりに、周囲の視線はさらに冷たいものになった。

「ええ、ええ。姉妹で仲がよろしいのね。」

「あら?でも婚約者はアルメリア様でしょう?」

 同情するような言葉が聞こえた。しかし、その響きはアルメリアにはただの皮肉にしか感じられなかった。

 そんな中、セレナが優雅に微笑みながらエドワルドに囁いた。

「エドワルド様、せっかくの舞踏会なのですもの。お姉様とも一曲踊って差し上げてはいかが?」

「……そうですね。」

 エドワルドは少し戸惑うような素振りを見せた後、あきらかに作った笑顔でアルメリアの前に立った。

「アルメリア嬢、踊りましょうか。」

「……ええ。」

 ぎこちない手つきでエドワルドの手を取り、踊り始める。しかし、彼の足取りはどこか気のないもので、セレナと踊ったときのような華やかさは微塵も感じられなかった。

(……何、この気まずさ。)

 アルメリアは自分の心臓が小さく震えるのを感じた。エドワルドの目はどこか遠くを見つめており、まるで早く終わらせたいかのようだった。

 やがて曲が終わると、エドワルドは形式的な礼をし、すぐにセレナの方へ視線を向けた。

「ありがとう、アルメリア嬢。」

 それだけ言うと、彼は立ち去っていく。

(私が婚約者なのに……こんなの、まるで……。)

 アルメリアは絶望的な思いで立ち尽くした。周囲の視線が、痛いほど彼女に突き刺さる。

(もう、逃げ出したい……。)

 しかし、逃げることは許されない。この冷たい視線に晒され続けることこそが、彼女の定めなのかもしれなかった。

お読みいただきありがとうございます。

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