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第七章

 アルメリアは庭での出来事を胸に抱えたまま、その夜を迎えた。寝室の窓辺に立ち、月明かりを見つめながら考えを巡らせる。エドワルドは婚約者である自分ではなく、なぜセレナに特別な贈り物をしたのか。

「……考えすぎよね。」

 自分に言い聞かせるように呟く。けれど、胸の奥に広がるざわつきは消えなかった。

 翌日、アルメリアは食堂で家族と朝食を共にしていた。

「エドワルド様とは、どのようなご様子なの?」

 母の問いに、アルメリアは微笑みを作る。

「とても誠実な方です。」

「そうでしょうね。何しろレイモンド侯爵家のご子息なのだから。」

 でも、と母は続ける。

「セレナのように、相手に寄り添う気持ちを持つことも大事なのですよ。」

 母はため息をつく。

「お姉様、もう少し努力なさった方がよろしいかもしれませんわね。」

 セレナが控えめに微笑みながら言うと、家族はさらに同意する。

「そうね、エドワルド様も少し困っていらっしゃるかもしれないわ。もっと努力なさい。」

 まるでアルメリアが悪いかのような空気が広がる。

 そこで、アルメリアの向かい側で紅茶を口に運んでいたセレナが、ふと微笑みながら言った。

「そういえば姉様はご存じかしら? エドワルド様は昨日、隣町のマーケットに出かけられたそうですわ。」

「隣町に?」

 アルメリアは意外に思った。聞いていなかった。

「ええ。素敵な品が揃っていたとか。」

「そうなのね……。」

 胸の奥に再び小さな棘が刺さる感覚を覚えた。マーケットで何かを買ったとすれば、それは誰のためのものなのか。

 数日後、アルメリアは屋敷の中庭で本を読んでいた。心を落ち着けようとしたが、エドワルドとセレナのことが頭から離れない。

「お姉様。」

 ふと声がして顔を上げると、セレナが微笑みながら立っていた。

「今、お時間あるかしら?」

「ええ……どうしたの?」

 セレナはわずかに視線を逸らし、ためらうような仕草を見せた後、ゆっくりと口を開いた。

「エドワルド様と、もっと仲良くなられた方がいいのではないかと思いまして。」

「……どういう意味?」

「だって、お姉様ったら……どこかよそよそしいのですもの。エドワルド様も、少し戸惑っていらっしゃるかもしれませんわ。」

 その言葉に、アルメリアは息を呑んだ。まるで、自分が悪いかのような言い方だった。

「私は……そんなこと……。」

 言葉を濁すと、セレナは優雅に微笑んだ。

「私でよければ、間に入ってお手伝いしますわ。」

 その申し出に、なぜか悪寒がした。

 アルメリアは微かに震えながら、セレナを見つめ返した。

 その時、ふとセレナの首元が目に入った。

「それは……?」

 セレナがつけていたのは、美しい細工の施されたペンダントだった。以前、庭でエドワルドが彼女に髪飾りを贈る場面を見たが、ペンダントまでも贈られていたのだろうか。

「まあ、これですか? エドワルド様が選んでくださったのです。私に似合うと思ってくださったようで。」

 セレナは嬉しそうに指でペンダントをなぞった。

 アルメリアの胸が強く締め付けられる。

「……素敵ね。」

 やっとの思いで言葉を絞り出した。エドワルドは、自分には無難なデザインの贈り物をしてくれたが、セレナには明らかに彼女を意識して選んだものを贈っている。

「お姉様も、エドワルド様ともっと打ち解けられるといいですわね。」

 セレナの声は優しげだったが、その瞳には確かな優越感が浮かんでいた。

 アルメリアはただ黙って微笑むしかなかった。

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