第六章
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エドワルドと何度か交流を重ねるうちに、彼とセレナの距離が縮まっていった。
最初は些細なことだった。茶会の席でアルメリアがエドワルドと話していると、セレナが「たまたま」通りかかり、軽やかに会話に加わる。
「まあ、お姉様とエドワルド様、とても楽しそうですわね。私もご一緒してもよろしいかしら?」
「もちろん、セレナ嬢。」
エドワルドは微笑み、セレナが話題に加わることを歓迎した。それからというもの、書斎での仕事の話の場や庭園での談話にも、セレナが「偶然」合流する機会が増えていった。
次第に、セレナはエドワルドと先に話している場面が目立つようになった。
ある日、アルメリアは庭園に向かいながら、エドワルドと話す予定を楽しみにしていた。だが、すでに二人はベンチに腰掛け、親しげに談笑していた。
「セレナ嬢の話はとても楽しいですね。」
「まあ、お優しいのですね、エドワルド様。」
セレナは頬に手を当て、微笑んでいる。その姿はまるで恋する少女のようだった。
アルメリアは足を止め、二人の様子をじっと見つめた。
「……何かお話しされていたのですか?」
アルメリアが声をかけると、エドワルドは少し驚いたように振り返り、穏やかに微笑んだ。
「ちょうど舞踏会の話をしていたのです。」
「ええ、お姉様。エドワルド様はとても博識でいらして、お話がとても興味深いのですわ。」
セレナが優雅に言うと、エドワルドも笑みを深めた。
「セレナ嬢は話題が豊富で、会話が弾むのです。舞踏会についても、いろいろと新しい視点を教えていただきました。」
アルメリアは微笑みながらも、胸の奥に冷たいものを感じた。セレナが社交に優れていることは知っていたが、エドワルドとの会話がとても楽しげであることに、言いようのない不安が芽生えた。
そして、それは次第に、アルメリアが知らないうちに二人が会話を交わす場面へと変わっていった。
ある時は、偶然廊下を歩いていたアルメリアが、奥のサロンから楽しげな笑い声を耳にした。静かに扉を開けると、そこには二人きりで談笑するセレナとエドワルドの姿があった。
「本当に? それはとても興味深いです、セレナ嬢。」
「ええ、お姉様にはあまり興味のないお話かもしれませんけれど。」
セレナの甘い笑顔と、それに応じるエドワルドの微笑み。
アルメリアの心の中に、小さな違和感が積もっていった。
そして、それはやがて疑念へと変わっていくのだった。
エドワルドとの関係にわずかな違和感を覚え始めたアルメリアだったが、決定的な場面を目撃することになる。
ある日、アルメリアは屋敷の庭を歩いていた。風が心地よく、新鮮な空気を吸い込みながら散策していると、ふと奥の庭園の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。アルメリアは足を止め、薔薇の茂みの隙間からそっと覗き込んだ。
そこには、エドワルドがセレナに小さな宝石細工の髪飾りを手渡している姿があった。
「まあ、こんな素敵なものをいただいてしまってよろしいのかしら? でも、エドワルド様のお心遣い、とても嬉しいですわ。」
その声音は甘く、そしてどこか誇らしげだった。
「セレナ嬢の金色の髪に似合うと思いまして。」
エドワルドは柔らかく微笑みながらそう言い、セレナも嬉しそうに受け取る。
「まあ……エドワルド様は私の好みをよくご存じですのね。」
セレナが嬉しそうに微笑む。
「お姉様にも贈り物をなさったのでしょう?」
「ええ、そうですね……。セレナ嬢には、あなたらしいものをと思いまして。」
「嬉しいですわ。貴族の娘として、やはり装いには気を遣うべきですわね。お姉様も、もう少し華やかにされればよろしいのに。」
アルメリアの存在に気づいていないのか、セレナは優越感たっぷりに言葉を続けた。
「でも、お姉様は慎ましさが取り柄ですものね。」
その言葉を聞いた瞬間、アルメリアの胸がぎゅっと締め付けられるような感覚に襲われた。
胸の奥にざわめきが広がっていく。静かにその場を離れようとしたが、足が思うように動かない。確かに、セレナの言う通りなのかもしれない。彼女は派手さを求めず、慎ましやかに振る舞うことを美徳としてきた。だが、それはエドワルドにとって魅力的ではなかったのだろうか?その場から動くことができずにいると、セレナがアルメリアに気づいた。
「あら、お姉様。こんなところでどうなさいましたの?」
セレナは微笑みながら、まるで何も悪びれた様子もなくアルメリアの方へと歩み寄った。そして、手元の髪飾りをわざとらしく見せつけるようにかざした。
「エドワルド様ったら、とてもお優しいのですわ。私にまでぴったりの贈り物を選んでくださって……。」
アルメリアはぎこちなく微笑みを返した。
「……素敵ね。」
「ええ、とても。ところで、お姉様もエドワルド様から贈られたのでしょう?」
セレナの瞳が輝く。アルメリアは胸の奥がずきりと痛んだ。
「私もいただいたわ。」
エドワルドを見ると心なしかが気まずげに微笑んでいるが何も言わない。
「まあ、それは良かったですわ。私にまで贈り物をくださるなんて、エドワルド様は本当にお優しい方ですのね。」
その言葉に、アルメリアは押し殺すように微笑んだ。しかし、胸に湧き上がる違和感は、もはや拭い去ることができなかった。
(なぜ……?)
その疑問は、まだ答えを得ることはなかった。
確かに、彼女もエドワルドからプレゼントを受け取った。しかし、それは無難なデザインのブローチで、セレナのものに比べると、まるで心がこもっているとは思えないものだった。セレナの手の中にある髪飾りは、繊細な細工が施され、彼女の華やかさを引き立てるような特別なものに見えた。
心の奥に、冷たい影が差し込んでいくのを感じた——。




