第五章
エドワルドと初めて顔を合わせた日、アルメリアは緊張しながらも礼儀正しく微笑んだ。レイモンド侯爵家の次男として育てられた彼は、整った顔立ちと穏やかな雰囲気を持ち合わせており、品格のある人物だった。
「お会いできて光栄です、アルメリア嬢。」
彼は丁寧にそう言いながら、アルメリアの手を取って軽く口づけた。その仕草に、アルメリアの胸は静かに高鳴る。
「私もお会いできて嬉しく思います、エドワルド様。」
しかし、彼の視線が時折セレナの方へ向かっていることにアルメリアは気付いてしまった。
「お姉様の婚約者様はとても素敵な方ですわね。」
セレナが微笑みながらエドワルドに話しかける。無邪気な妹を演じているようなその態度に、アルメリアは小さな違和感を覚えた。
「お褒めに与り光栄です、セレナ嬢。」
エドワルドはやや戸惑いながらも微笑み返す。その会話の流れに、アルメリアは静かに紅茶を口に運んだ。
その後も、顔合わせの茶会の最中、セレナはさりげなくエドワルドに話しかける機会を増やしていった。
「エドワルド様は、狩猟がお好きだと伺いましたわ。」
「ええ、幼い頃から馬に乗るのが好きで。狩りは侯爵家の伝統の一つでもありますからね。」
「まあ、素敵ですわ。私は馬に乗るのは少し苦手ですけれど、お姉様は上手に乗りこなせますのよ。」
「それは素晴らしいですね。」
エドワルドはアルメリアを見つめながらも、セレナの言葉に耳を傾けていた。アルメリアは微笑みを絶やさなかったが、胸の奥で何かが引っかかるような感覚があった。
それからというもの、エドワルドとの交流の場には、なぜかいつもセレナがいた。
ある日、エドワルドと散歩をする機会があったが、途中でセレナが偶然を装って現れた。
「あら、お二人でお散歩ですの?」
彼女は優雅に微笑みながら近づいてきた。
「そうだよ、セレナ嬢。天気が良いので少し歩こうかと。」
「まあ、素敵ですわね。私もご一緒してよろしいかしら?」
エドワルドは一瞬アルメリアを見たが、セレナの申し出を断る理由もなく、最終的に三人で歩くことになった。
「エドワルド様は剣術も嗜まれるのですか?」
「ええ、幼少の頃から鍛錬を重ねています。」
「まあ、それは頼もしいですわね。」
セレナはまるでアルメリアがそこにいないかのように、エドワルドと会話を進めていった。
そんな日々が続き、アルメリアは次第に違和感を強めていった。
「どうしていつもセレナがいるの……?」
彼女は心の中で問いかけながらも、妹を疑うことに罪悪感を覚えていた。しかし、彼女はまだ知らなかった。この違和感が、後に自らの運命を狂わせるものだということを——。
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