第三十四章
アルメリアの新たな侯爵家設立の報せが王宮から正式に発表されると、貴族社会は大きく揺れた。多くの者が彼女の才覚を称賛し、これまで冷遇されていたことを惜しむ声すら上がるほどだった。
「まさか、アルメリア嬢が侯爵家の当主になるとは……」
「それどころか、公爵家との婚姻も決まったそうではないか。これは王国にとっても大きな意味を持つ」
各地でそんな噂が飛び交う中、レグニエ侯爵家の屋敷は沈黙に包まれていた。
「……どうして……。こんなことに……」
侯爵は信じられないというように青ざめた顔で呟いた。セレナもまた、硬直した表情で動けずにいた。
「どうして……どうしてなの? お姉様は、ただの失敗作だったはずなのに……!」
セレナの叫びが虚しく響く。しかし、もはや現実は変えられない。レグニエ侯爵家の立場は完全に崩れ去った。かつての跡継ぎでありながら不当に追いやられたアルメリアが、新たな侯爵家を興し、公爵家に迎え入れられる。これは彼らにとって、屈辱以外の何物でもなかった。
そして、決定的な打撃がレグニエ侯爵家に下される。
「エルネスト・フォン・レグニエ侯爵。王命により、そなたの家門に対する領地の一部を剥奪する。それだけですんだのは、セレナ嬢の隣国の王女に対する無礼をアルメリア嬢が取りなしてくれたからであることを忘れることのないように」
国王からの勅令により、レグニエ侯爵家はこれまで保持していた領地の一部を没収されることとなった。加えて、多くの貴族が距離を置くようになったことで、彼らの影響力は急激に衰えていく。
「そ、そんな……」
侯爵夫人は唇を震わせながら、信じられないという表情を浮かべる。しかし、すでに彼女たちの言い訳を聞いてくれる者はいなかった。
そんな中、王宮では正式な婚約発表の祝宴が盛大に開かれていた。
アルメリアは華やかなドレスを纏い、エヴラールの隣に立っていた。彼は変わらぬ穏やかな微笑みを浮かべ、しっかりと彼女の手を握っている。
「アルメリア、貴女がこうして隣にいることが何よりも嬉しいです」
「エヴラール様……」
彼の言葉に、アルメリアの胸が温かく満たされる。長い苦難の道を歩んできたが、今ここにいることは間違いではなかった。
「さあ、そろそろ正式に発表の時間です」
王家の代表が壇上に上がり、高らかに告げる。
「アルメリア・フォン・アルベル侯爵と、エヴラール・フォン・ルーベルト公爵の婚約を、正式に王国が認めることをここに宣言する!」
その瞬間、会場が大きな歓声に包まれた。アルメリアの目には涙が浮かぶ。
(これが……私の、未来……)
苦しみも悲しみも、全てを乗り越えて、彼女はついに手に入れた。愛する人と共に歩む、幸せな未来を。
エヴラールがそっと囁く。
「アルメリア、これからはずっと一緒です。何があっても、貴女を守ります」
「……はい」
アルメリアは深く頷いた。
そして、新たな人生が、幸福に満ちた未来が、彼女の前に広がっていた——。
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