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第三十二章

 アルメリアは、公爵家の庭園で静かに紅茶を口に運んでいた。美しく手入れされた花々が風に揺れ、穏やかな午後の陽光が降り注いでいる。

「公爵家の仕事にはもう慣れましたか?」

 突然聞こえた低く落ち着いた声に、アルメリアは顔を上げた。そこには、いつものように端正な顔立ちで彼女を見つめるエヴラールの姿があった。

「はい、おかげさまで。ですが、まだまだ覚えることはたくさんあります」

「それは頼もしいことです。貴女がここに来てから、公爵家の外交は見違えるように良くなりました」

 エヴラールは穏やかに微笑みながら、彼女の向かいの席に腰を下ろした。

「あなたのお役に立てているのなら、嬉しいですわ」

 アルメリアはそう答えたが、どこか心が落ち着かない。セレナが現れてから、エヴラールの態度が微妙に変わったように思えたのだ。以前よりも彼の視線を感じることが多くなり、まるで彼女の言葉の一つ一つを深く受け止めているように思えた。

「アルメリア」

 突然、エヴラールが真剣な眼差しで彼女を見つめた。

「貴女はこれからも、公爵家で働き続けるつもりはありますか?」

「もちろんです。お許し頂けるなら是非働かせていただきたいです。」

 そう答えながらも、アルメリアは彼の意図が読めず、胸がざわついた。

「……そうですか。でも、それだけでは足りませんね」

 エヴラールはふっと笑みを浮かべると、ゆっくりと手を差し出した。

「ずっと私の隣にいてほしいです。共に未来を築いていただきたい」

 アルメリアは息をのんだ。

「それは……どういう意味でしょうか?」

「言葉のままです。貴女を妻としてお迎えしたい」

 彼の言葉は、驚くほど真っ直ぐだった。からかいでもなく、策略でもない。ただ純粋な想いがそこにあった。

「私は貴女の才覚を認め、信頼しています。そして、いつの間にか……貴女がいない未来を考えられなくなっていました」

 アルメリアは胸がいっぱいになり、言葉が出なかった。

「私は……」

 迷いと驚きが混ざる中、彼女はエヴラールの手を見つめた。力強くも優しいその手を取ることは、これまでの人生の全てを肯定することになる。

 だが――

「でも、私はレグニエ侯爵家の娘で、公爵家にとって何のメリットもありません。むしろデメリットしかありません。そんな私が、ルーベルト公爵家の未来を共に歩んでいいのでしょうか?」

 小さく囁くように問いかけた。

 エヴラールはその言葉に、少し呆れたような微笑を浮かべた。

「貴女だからいいんです。いや、貴女でなければ駄目なんです」

「けれど……」

「アルメリア、貴女は自分の価値を過小評価しすぎです。公爵家にとっての利益? そんなものはもう十分いただいています。私は、貴女がそばにいることで得られる未来こそが何よりの価値だと思っています」

 その瞬間、アルメリアの心にあった迷いはすっと消えていった。

 ゆっくりと彼の手に自分の手を重ねる。

「……よろしくお願いします」

 するとエヴラールは満足げに微笑み、彼女の手をしっかりと握りしめた。

 この瞬間、二人の新たな未来が始まったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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