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第二章

 王都で開かれる春の舞踏会の季節が訪れた。貴族の見栄と誇りで連日様々な趣向を凝らした舞踏会が開かれていた。貴族の社交界において最も華やかな催しのひとつであり、特に若い貴族たちにとっては、良縁を結ぶ重要な場でもあった。

「セレナには相応の美しさを引き立てる装いが必要なの。」

 母の言葉に、アルメリアは苦笑するしかなかった。セレナのために仕立てられたのは、金糸が織り込まれた深紅のドレス。彼女の美しさをさらに引き立てる豪華な衣装だった。

 一方で、アルメリアのために用意されたのは淡い青色のシンプルなドレスだった。素材こそ上質だが、装飾は最低限に抑えられている。

「お姉様、そのドレスも素敵ですわ。」

 セレナは微笑みながら言ったが、その目には明らかに優越感が漂っていた。

「ありがとう。」

 アルメリアは静かに返した。心の奥で感じる小さな棘を、気にしないふりをするのにも慣れていた。

 侯爵家で開かれた舞踏会当日、広間は貴族たちで埋め尽くされていた。煌びやかな装飾が施された会場には、各地の名家の若き令嬢や貴公子が集い、談笑していた。

「セレナ様、本日もお美しいですね。」

「本当に、まるで薔薇のような華やかさです。」

「まさに侯爵家の天使ですね。」

 セレナの周りには、多くの貴族の青年たちが集まり、彼女を称賛していた。その中心にいるセレナは、優雅に微笑みながら、品のある受け答えをしていた。

 一方、アルメリアは壁際で静かにワインを口に運んでいた。彼女に話しかける者は少なく、たとえいても義務的な挨拶を交わす程度だ。

「アルメリア様、ご機嫌麗しゅう。」

 そう言って話しかけてきたのは、婚約者候補と噂されている貴族の青年、レオン・クラウス子爵だった。彼は礼儀正しく、優雅な立ち居振る舞いを見せたが、その目にはどこか退屈そうな光が宿っていた。

「レオン様、こちらこそお会いできて光栄です。」

 アルメリアは微笑んで応じたが、会話はすぐに途切れた。彼の興味は彼女ではなく、会場の中心で華やかに振る舞うセレナに向けられているのは明らかだった。

「アルメリア様は、あまり目立たれませんね。」

「そうですね。あまり華やかな場は得意ではありませんので。」

 彼女がそう答えると、レオンは軽く肩をすくめた。

「それはもったいない。セレナ様とは双子でいらっしゃるのだから……あちらのセレナ様のような華やかさは、とても魅力的ですよ。」

 アルメリアは静かに微笑んだまま、グラスの中のワインを見つめた。彼の言葉は悪意のないものだったが、その無邪気な言葉が胸の奥に突き刺さる。

「お姉様、踊りませんの?」

 セレナが手を差し出した。彼女は舞踏会の中心にいるにもかかわらず、まるで慈悲を施すかのようにアルメリアを誘う。

「ありがとう、でも私は……」

 アルメリアが断ろうとした瞬間、別の声がそれを遮った。

「セレナ様、次のダンスをご一緒してもよろしいでしょうか?」

 それはレオンだった。

「まぁ、嬉しいですわ。」

 セレナは微笑みながら彼の手を取る。

 アルメリアは静かに視線を落とし、グラスの中のワインを見つめた。

 その夜、彼女は一つの確信を得た。

 ——自分は、この家の主役にはなれないのだ、と。

お読みいただきありがとうございます。

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