第二十七章
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レグニエ侯爵家の屋敷に重い空気が流れていた。
応接室の中央、豪奢な椅子に腰かけたのはレイモンド侯爵である。彼は静かながらも威圧感のある眼差しでレグニエ侯爵を見つめていた。その隣にはエドワルドが控えているが、彼の表情はどこか虚ろだった。
「さて、本題に入ろう。エドワルドとセレナ嬢の婚約は、ここで正式に破棄させてもらう。」
レイモンド侯爵の厳格な声が室内に響いた。レグニエ侯爵と夫人は驚愕の表情を浮かべたが、すぐに必死で言い返そうとする。
「待ってください! この話は突然すぎます! 何か誤解があるのでは——」
「誤解などない。」
レイモンド侯爵はレグニエ侯爵の言葉を冷たく遮る。
「お前たちは貴族社会において信頼を完全に失った。社交界でも笑いものになり、貴族たちの間でレグニエ侯爵家と縁を結ぼうという者は皆無だ。これ以上、息子をお前たちの没落に巻き込むわけにはいかん。」
「そ、そんな……! 私たちは何もしておりません。少しばかり誤解があっただけなのです——」
「無駄な足掻きだ。そもそも、社交界の評判を回復するには数十年はかかる。それほどの時間、お前たちに猶予があるとは思えんがな。」
レイモンド侯爵は皮肉げに微笑み、続けた。
「本来であれば、婚約破棄に伴い相応の慰謝料を請求するところだが……お前たちには金もないだろう。だから、免除してやる。」
「……!」
「もっとも、お前たちに請求しても、どうせ払えぬのだから、こちらの手間を省くために免除してやるだけだ。」
レグニエ侯爵と夫人の顔は青ざめ、言葉を失った。
セレナは震える唇でエドワルドを見つめた。
「エドワルド様……あなたはそれでいいの!? 」
エドワルドはその言葉に目を伏せ、淡々とした口調で応えた。
「すでに終わった話です。」
「そんな……! 私のこと、もう愛していないの!?」
「……今となっては、そんなものはなかったかもしれません。」
その言葉に、セレナは崩れ落ちた。
「嘘よ……! だって、あなたは姉ではなく私を選んだでしょう!? だから、アルメリアは捨てられたのよ! なのに、どうして……どうして今になって私を見捨てるの!?」
セレナは必死にエドワルドの袖を掴み、涙を浮かべながら訴えた。
「私の何が悪いというの!あなたは私の味方でいてくれるはずでしょう!? ねえ、エドワルド様……!」
しかし、エドワルドは冷めた目で彼女を見下ろし、静かに呟いた。
「……本当に私は、見た目に惑わされてしまった……愚か者です。」
「エドワルド様……っ!」
セレナの声は虚しく響き、エドワルドは彼女の手を振り払った。
「では、これで話は終わりだな。エドワルド、行くぞ。」
レイモンド侯爵が立ち上がり、エドワルドも後に続く。彼らが応接室を去ると、残されたレグニエ侯爵家の面々は、絶望の淵に沈んでいた。
こうして、レグニエ侯爵家の没落は決定的なものとなった。




