第二十五章
パーティーの喧騒が落ち着き、月明かりが穏やかに庭園を照らしていた。アルメリアは宮殿のバルコニーで夜風に当たりながら、一連の出来事を振り返っていた。
「ふぅ……。」
深く息を吐くと、そっと目を閉じる。その静寂を破るように、カツカツと高貴な足音が響いた。
「アルメリア。」
その優雅な声に振り返ると、そこには王女カトリーヌが微笑んで立っていた。
「カトリーヌ様。」
「今日は本当に大変だったわね。でも、あなたが毅然とした態度でいたことを誇りに思うわ。」
カトリーヌはそっとアルメリアの手を取ると、温かく微笑んだ。
「ありがとうございます」
アルメリアも笑顔で答える。
「それにしても、あなたのご家族……まったく理解できないわ。あれほど優秀なあなたを、どうしてあのように扱うのかしら?」
アルメリアは苦笑しながら肩をすくめた。
「もう、慣れましたから。」
「慣れた、ですって?」
カトリーヌの表情が曇る。
「あなたはもっと自分の価値を理解するべきよ。今のあなたなら、どこに行っても歓迎される。むしろ、欲しがられるわ。」
「……欲しがられる?」
アルメリアが聞き返すと、カトリーヌは意味深な笑みを浮かべた。
「そうよ、貴女の家族も手放したことを後悔するに決まっているわ。取り返される前に、彼にしっかり捕まえておいてもらわないとね?」
彼女が顎をしゃくる方向を見ると、そこにはエヴラールが静かに立っていた。
「王女殿下?」
エヴラールは驚いた様子だったが、すぐに冷静さを取り戻した。
「……どういうことでしょうか」
「そのままの意味よ、エヴラール公爵。アルメリアは非常に魅力的な女性よ。他の人に取られたくないなら、きちんと示すべきね。」
彼の表情がわずかに引き締まった。エヴラールはアルメリアのほうを見つめる。
「アルメリア嬢。」
彼の声は低く、だがはっきりとしていた。
「私は貴女を評価しています。これからも私のそばで、私とともにいていただきたいと思っています。」
アルメリアは一瞬、言葉を失った。しかし、次第に口元がほころぶ。
「……ありがとうございます。」
彼女の答えに、エヴラールは安堵したように微笑んだ。
「まあ、今のところはこの程度で許してあげるわ。」
カトリーヌが楽しげに笑う。
「でも、くれぐれも手遅れにならないようにね?」
エヴラールはその言葉の意味を深く噛みしめながら、再びアルメリアを見つめた。
この夜の出来事は、ただの社交の場での一幕ではなく、これからの彼らの関係に大きな影響を与えるものとなるのだった。
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