第二十三章
王宮の華やかな夜会。煌びやかな装飾が施された広間には、各国の要人や貴族たちが集い、優雅に談笑を交わしていた。この夜会には隣国の王女カトリーヌも出席していた。アルメリアはカトリーヌと親しく話していたが、王女との会話が一段落した後、その場を離れ、周囲の人々が集まる場所から少し離れたところに移動した。
そこで、待ち構えていたようにセレナと母、レグニエ侯爵が現れた。
「お姉様、お久しぶりです。ずいぶんと優雅に振る舞っていらっしゃるのね」
セレナの冷笑混じりの声が響く。
「王女殿下に取り入ったつもり? お姉様がそんなことをしても、所詮は身の程知らずな振る舞いに過ぎないわ」
「ダメよ、セレナ、そんなことを言っては。でもレグニエ侯爵家の者として王女様を怒らせてはたまらないわ。貴女はホントに気が利かないのだから……」
母の冷たい声が重なる。
「王女殿下の不評を買って、レグニエ侯爵家の傷になっては困るぞ。」
父の眉間には深い皺が寄っていた。まるで出来の悪い娘を叱責するかのように、冷ややかな視線を向けてくる。
だが、アルメリアは微笑を崩さなかった。むしろ、彼らを見つめる瞳には冷静な光が宿っている。
「……そうですか。ですが、身の程を知らないのはどちらでしょう? 私は今や王宮で認められ、隣国の王女様とも親交を深めています。古い価値観に縛られて、私を見下しているのではありませんか?」
セレナの表情が引き攣る。
「お姉様、酷いですわ……」
「事実を申し上げただけです。私を蔑むことで自分の立場が向上するとでも?」
「お姉様……っ!」
セレナが何かを言い返そうとしたその時。
「アルメリア!」
澄んだ声が響いた。周囲が振り返ると、そこにいたのはカトリーヌだった。
『さっきから探していたのよ。どうしたの?』
アルメリアは微笑み、軽く会釈する。
『たいしたことではございません。ご心配をおかけしました』
カトリーヌは微笑みながら、アルメリアに優しく手を添える。
『そんなに遠慮しないで。あなたともっと話したいわ』
流暢な異国の言葉で交わされる会話。しかし、セレナや母はまるで意味がわからず、言葉を理解していた父も二人の親しげな様子に呆然とする。
「……な、何を話しているの?」
セレナが訝しげにアルメリアに尋ねるが、アルメリアは肩をすくめた。
「まずは王女殿下にごあいさつされるべきだと思うのですが……」
侯爵と侯爵夫人は慌てて礼をとる。セレナは睨みつけるようにアルメリアを見つめる。
「理解できませんか? 王宮では、この程度のマナーは普通だと思いますが」
周囲にいた貴族たちがくすくすと笑う。セレナの無知が露呈し、場違いな存在となったことに、彼女たちもようやく気づいたようだった。
「まあ……そんな……」
母は顔を真っ赤にして言葉を失い、セレナは悔しそうに唇を噛み締めた。
『それでは、王女殿下、ご一緒いたしましょう』
アルメリアは優雅に一礼し、カトリーヌと共にその場を後にする。
残されたのは、恥辱と屈辱に震えるセレナたちだけだった。
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