第二十章
久しぶりに開かれた華やかな夜会の中で、アルメリアは思いがけずセレナと再会した。
「まあ、お姉様! こんなところでお会いできるなんて!」
セレナはわざとらしく大げさに声を上げ、周囲の貴族たちの注意を引いた。彼女の隣にはエドワルドが寄り添っている。
「久しぶりね、セレナ。」
アルメリアは淡々とした口調で答えた。かつての婚約者であったエドワルドの存在にも、一切心が乱れることはなかった。彼への感情はとうに失われ、もはや何の未練もない。
「お姉様、お元気でした? 私、ずっと心配していましたのよ。私がエドワルド様の心を奪ってしまったせいで、お姉様は跡継ぎから外されてしまうなんて申し訳なくて。しかもお姉様が私のために使用人になるなんて」
セレナは悲劇のヒロインを演じるかのように、涙を浮かべる素振りを見せる。しかし、その瞳には本当の憐れみなど欠片もない。
「ええ、おかげさまで。毎日充実しておりますわ。」
アルメリアがさらりと答えると、セレナは一瞬表情を曇らせたが、すぐに取り繕うように微笑んだ。
「それはよかったですわ! でも……やっぱりお姉様には申し訳なくて……。」
わざとらしくエドワルドの腕にすがりつき、見せつけるように寄り添う。
「私がエドワルド様と真実の愛で結ばれて、婚約してしまったばかりに、お姉様が……本当にごめんなさいね。でも、お姉様は今、とても充実していらっしゃるのでしょう?」
「ええ、その通りですわ。」
アルメリアは微笑みながら答えた。その様子に、セレナはまたしても動揺する。
エヴラールが傍に立っていることに気づいたセレナは、まるで今気がついたかのように驚いたふりをして、目を瞬かせた。
「まあ、エヴラール様もいらっしゃったのですね! 婚約のお話を白紙にしてしまって、本当に申し訳ありませんでしたわ。」
軽い謝罪の言葉だったが、その瞳には後悔の色はない。
「それは別に気にしていませんよ。」
エヴラールが淡々とした口調で答えると、セレナは一瞬面白くなさそうな表情を見せたが、すぐに微笑んだ。
「でも、お姉様……本当に大丈夫ですの? お姉様のような方が、きちんとお役に立てているのかしら……? エヴラール様にご迷惑をおかけしていません?」
周囲に聞こえるようにわざとらしく言うセレナに、アルメリアは優雅な笑みを浮かべた。
「ご心配なく、私は毎日とても有意義に過ごしておりますわ。」
「そう……それならいいのだけれど。」
セレナは納得がいかない様子で、それでも周囲の視線を気にして表向きは微笑んでいた。
エドワルドはそんなセレナをじっと見つめ、彼女の言動にかすかな違和感を覚えていた。
セレナとエドワルドがその場を離れると、エヴラールが小さく息をついた。
「見事な対応でした。」
「ええ、あれくらいで動揺するほど子供ではありませんもの。」
アルメリアは軽く肩をすくめながら、手に持ったグラスを傾けた。そこに、別の貴族たちが話しかけてきた。
「アルメリア様、先ほどのやり取りを拝見しましたが……実に見事でした。」
「以前のあなたを知っている者からすれば、驚くべき変化ですな。」
彼らの言葉に、アルメリアはただ静かに微笑む。
(以前の私なら、きっと悔しさに震えていたでしょうね……)
だが今の彼女は違う。過去に囚われることなく、前を向いて歩いていた。
まわりからも今のアルメリアを見て噂をする声が聞こえる。
「アルメリア様は気弱で、何もできない方だと聞いておりましたが……まるで違いますね。」
「本当に。あの堂々たる態度、落ち着き……。一体セレナ様は何をおっしゃっていたのかしら?」
セレナと親交のある貴族令嬢たちが、今のアルメリアを見て違和感を抱き、次第にセレナの言葉に疑念を持ち始めていた。
「セレナ様は、何かと『かわいそうなお姉様』とおっしゃっていましたが……」
「まさかご存じなかったのかしら?」
そんな声がひそひそと交わされ始める。
エヴラールはそれを聞きながら、微かに口元を綻ばせた。
「さて、この夜会もまだ続く。もう少し楽しんでいくとしようか。」
アルメリアはその言葉に頷き、新たな人々との会話へと歩みを進めた。
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