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第十七章

 王女カトリーヌはお忍びで街を散策していた際に出会ったアルメリアと、互いに心を開くきっかけを得た。そしてその後、アルメリアはルーベルト公爵家の関係者として正式に王宮へ招かれ、カトリーヌ王女と再び顔を合わせることになった。

「あなたとまた話せるなんて嬉しいわ、アルメリア。」

 カトリーヌは笑顔で迎えてくれた。王族の威厳を持ちながらも、彼女はどこか親しみやすい雰囲気を漂わせていた。

 アルメリアもまた微笑みを返す。

「私も光栄ですわ。王女殿下との会話はとても楽しく、学ぶことが多いです。」

 こうして、二人は少しずつ打ち解けていき、ゆっくりとした友情が芽生え始めていた。

 次にアルメリアが王宮を訪れた際、カトリーヌは彼女に自らの趣味である刺繍を見せた。

「見て、この模様、なかなか上手くできたと思わない?」

 カトリーヌが誇らしげに見せたのは、細やかな金糸が織り込まれた花の刺繍だった。

「とても美しいですわ。王女殿下は器用でいらっしゃるのですね。」

「アルメリアもやってみない?」

「はい」

 カトリーヌの提案で、二人は並んで刺繍をすることになった。

「アルメリア、あなた刺繍がとても上手ね」

 カトリーヌはアルメリアの手元を見て笑顔を向けた。アルメリアは少しはにかみながら感謝の言葉を告げた。

「ありがとうございます。お世辞でもうれしいですわ。初めて褒めていただきました。母からはいつも姿勢が悪いと叱られてばかりでしたので。」

 カトリーヌは驚いたようにアルメリアを見た。

「あら、貴方のお母様は見る目がないのね」

 その言葉に、アルメリアはふふっと笑みがこぼれた。この時間がとても心地よいものであると感じていた。

 またある時は、カトリーヌはアルメリアを招いて宮廷音楽の演奏会に連れて行った。

「宮廷音楽はあまりお好きではないかしら?」

「いえ、とても興味がありますわ。」

 二人は並んで音楽を楽しんだ。流れる旋律に耳を傾けながら、アルメリアは妹セレナのピアノを思い出していた。王宮からも招待されていたセレナ。自分には音楽の才能はなかったので羨ましかったのを覚えている。そこにカトリーヌがぽつりと呟いた。

「あなたが私の国に来てくれて、本当に嬉しいの。これからもずっと、そばにいてくれたらいいのに。」

 アルメリアは驚きつつも、その言葉に温かさを感じた。

「私も、王女殿下との時間がとても楽しいです。」

 いつの間にかセレナのことは忘れていた。

 ある時、カトリーヌはアルメリアを宮殿の庭園へと招いた。そこは美しく手入れされた花々が咲き誇る、静かで穏やかな場所だった。

「私はね、王女としての立場に縛られることが多いの。でも、あなたと話していると、そんなことを忘れてしまうのよ。」

 カトリーヌはバラの花を指でなぞりながら、そう呟いた。

「私でよければ、いつでもお話し相手になりますわ。」

 アルメリアは穏やかに応じた。

「あなたは本当に優しいのね。」

 カトリーヌはそう言って微笑んだ。その後、二人はしばらく庭園を散策しながら、花の手入れの話や王宮の生活について語り合った。カトリーヌが笑いながら宮廷の逸話を話すと、アルメリアもつられて微笑んだ。

「アルメリア、あなたは本当に話しやすいわ。まるで昔からの友人のように。」

 その言葉にアルメリアは驚きながらも、どこか誇らしい気持ちになった。

 王女からのお誘いも回数を重ねてきた頃、カトリーヌはアルメリアを自室へと招いた。豪奢な部屋に並ぶ調度品の数々は、王女としての地位を物語っていた。しかし、カトリーヌは静かに窓辺に座りながら、ふっと小さく息を吐いた。

「私ね……本当は、王族として生まれたことに疲れることがあるの。」

 アルメリアは静かに彼女の隣に座った。

「どうして、そう思われるのですか?」

 カトリーヌは少し間を置いてから答えた。

「私はずっと、この国の王女としての役割を求められてきたわ。でも、誰も私自身を見てくれないの。ただの『王女』として扱われるの。」

 アルメリアは彼女の言葉を静かに受け止めた。

「私も……同じような思いをしたことがあります。」

 アルメリアは幼い頃からの経験を語った。家族の中で次第に疎まれ、期待されながらも愛されなかった過去。そして、今の自分があること。

「だからこそ、王女殿下がどのような方なのか、私はしっかりと見ていきたいと思います。」

 カトリーヌは目を見開き、それから少し涙ぐみながら微笑んだ。

「ありがとう、アルメリア。あなたと出会えて、本当に良かった。」

 こうして、二人の間には確かな友情が芽生え、宮廷の中でも「カトリーヌ王女のお気に入り」として、アルメリアの存在はさらに広まっていくこととなった——。

お読みいただきありがとうございます。

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