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第十四章

 セレナは満ち足りた気持ちで鏡を見つめた。

 ドレスのふんわりとしたレースが揺れ、髪には宝石細工の髪飾りが輝いている。まさに、幼いころから憧れていた「理想の自分」だった。

(ようやく、すべてが私のものになったのね……)

 アルメリアが跡継ぎとして育てられたことが、ずっと不満だった。

 たった数分早く生まれたというだけで、すべての注目を浴びていた姉。父はアルメリアばかりを見て、勉学を厳しく仕込み、期待をかけていた。だが、その期待は決して愛情ではなかった。

 アルメリアは跡継ぎとしての振る舞いを求められた。少しのミスでも容赦なく叱責され、母には厳しい言葉を浴びせられていた。

 対して、セレナは何をしても許され、褒められた。

「セレナは可愛いわね。」

「セレナのピアノは素晴らしい。宮廷音楽会で披露出来るかもしれない」

「貴女は自慢の娘よ」

 華やかなドレスに身を包み、愛らしい笑みを浮かべていれば、それだけで周囲はちやほやしてくれた。母もセレナには甘く、何か失敗しても軽く微笑んで許してくれた。

 セレナには美しいドレスや宝石が与えられた。豪華な装いを身に纏うたびに、母は嬉しそうに微笑んだ。金糸を織り込んだ深紅のドレス、眩い宝石が散りばめられたティアラ——どれもセレナの魅力を引き立てるものだった。

 一方、アルメリアには淡い青色の地味なドレスが与えられた。素材こそ上質だが、装飾は最低限に抑えられ、華やかさとは程遠かった。

 母の愛情はいつも自分に向いていた。 「セレナを見習いなさい。」 いつの間にか、それが母の口癖となっていた。その優越感がたまらなかった。

 アルメリアがどんなに努力しても、社交の場では注目されるのはセレナだった。

 エドワルドに近づいたのも、最初は単なる好奇心だった。

 アルメリアの婚約者。とても優しそうで見目もよいステキな男性。

(この人が、お姉様のものなの?)

 そんな考えが、心の奥底で燻っていた。

 エドワルドは優しく、騎士のような立ち居振る舞いをする好青年だった。そして、少しずつ彼と会話を重ねるうちに、彼の目が自分に向くのを感じた。

「セレナ、君は本当に可愛らしいね。」

 彼の言葉に、甘い勝利の予感がした。

 アルメリアと並んでいるとき、エドワルドの目は決して姉に向いていなかった。セレナと話すときは楽しげに微笑み、舞踏会では彼女とのダンスが評判になった。

 それとは対照的に、アルメリアとのダンスはどこかぎこちなく、会話も淡々としていた。

 ある日、エドワルドからセレナへ贈り物が届いた。美しい宝石のついた髪飾りと、繊細な刺繍が施されたショール。それは、アルメリアが贈られた小さなペンダントとは比べものにならないほど豪華なものだった。

(エドワルド様は、もうお姉様より私を見ている——)

 そう確信したとき、心の奥に歓喜が湧き上がった。

「お姉様には申し訳ないけれど……エドワルド様を愛してしまったの。」

 涙ながらに訴えたとき、母も父も驚きながらも納得したようだった。

「まあ、エドワルド様がセレナを選ぶのなら、それが一番ではないかしら?」

 そして、すべては自分の思い通りになった。

 アルメリアの婚約は解消され、彼女は両親からも見捨てられた。

 今やセレナは侯爵家の跡取り。名門にふさわしい立場を手に入れたのだ。

 だが——

「ルーベルト公爵家で、アルメリア様が高く評価されているそうですよ。」

 そんな噂が聞こえてきたのは、つい最近のことだった。

 最初は信じられなかった。

 あの誰からも見向きもされなかったお姉様が?

「まさか……そんなこと……」

 ほんのわずかに、胸の奥にざわめきが生じる。

(そんなはずはない。だって、アルメリアは私より劣っていたはず——)

 けれど、その不安をセレナは振り払った。

「いいえ、私が今の立場を手に入れたのよ。」

 満面の笑みを浮かべながら、彼女は社交界の中央で舞い踊る。

(アルメリア、あなたはもう過去の人よ——)

 そう、信じていた。

お読みいただきありがとうございます。

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