表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/36

第十二章

この物語を読んでくださり、ありがとうございます!

現在、毎日3話ずつ更新予定です。

それでは、物語をお楽しみください!

 レグニエ侯爵家の応接室に、冷たい緊張が漂っていた。

「これは一体、どういうことなのでしょうか?」

 エヴラール・フォン・ルーベルト公爵の言葉は、穏やかながらも冷徹だった。その隣には、彼の側近と思しき男性が控えている。

「まさかルーベルト公爵家に対し、婚約の話を自ら持ち込んでおきながら、一方的に破談にするとは思いませんでしたよ。社交界では、すでにこの話が広まっており、私の家の名誉は大いに傷つけられました。」

 レグニエ侯爵と夫人は、冷や汗をかきながらエヴラールの言葉に耳を傾けていた。これほどまでに冷静でありながら怒りを含んだ言葉に、反論など許されるはずもない。

「そ、それは……エヴラール公爵閣下、誤解が……」

「誤解?」

 エヴラールはわずかに眉を上げた。

「つまり、貴族間の縁談を軽々しく扱い、自分に都合のいいように破談にすることが貴族の常識だと?」

「いえ、決してそのようなつもりは……!」

 侯爵はしどろもどろになりながらも、必死に言葉を探していた。しかし、エヴラールの鋭い視線を前に、言い訳は次第に喉に詰まる。

「……まあ、今さら貴方たちの言い訳など聞くつもりはありません。」

 バシンッ、とエヴラールは手元の書類を机に置いた。

「このままでは、私も黙っているわけにはいきません。社交界に対し、レグニエ侯爵家がどれほど無責任で信用に欠ける家であるか、然るべき場で公にするつもりですが——」

「ま、待ってください!」

 侯爵夫人が慌てて前に出る。これ以上、ルーベルト公爵家の怒りを買えば、レグニエ侯爵家の立場が危うくなるのは明白だった。

「……何か、言いたいことでも?」

 エヴラールは静かに問いかけた。その表情には、すでに答えが見えているような余裕があった。

「その、どうか……お許しを……」

「ふむ。」

 エヴラールはわざと考え込むように指を組む。

「許しを請うのであれば、それなりの誠意を見せてもらいましょう。」

「誠意、とは……?」

「簡単なことです。貴家には、アルメリア様がいらっしゃいますね。」

 アルメリアは、今まで息を殺してこの場にいた。目の前で繰り広げられるやり取りに、ただただ手を握りしめることしかできない。

「彼女を、ルーベルト公爵家にいただきたい。」

「……!」

 アルメリアの心臓が大きく跳ねる。

「もちろん、婚約者などではなく働いてもらうためです。」

 その瞬間、部屋の空気が凍りついた。

 アルメリアの脳裏に、彼女を蔑むような両親の言葉が浮かんだ。でも、もしかしたら拒否してくれるかもしれない。いくらなんでも、娘をそんな形で差し出すなど——

「……わかりました。」

「!」

 侯爵のその一言が、アルメリアの最後の希望を打ち砕いた。

「アルメリアを……使用人として公爵家に差し出す、ということで問題はございません。」

「お父様……」

 思わず声をあげたが、侯爵はアルメリアを見ようともしない。

「この家の娘として、公爵家のために尽くすことができるのならば、それはむしろ名誉なことではないか。」

「そ、そうですわ。」

 母もすぐに賛同する。

「アルメリア、これは貴女にとってもよい機会だわ」

(やっぱり、私のことはどうでもいいのね……)

 アルメリアの視界が揺らぐ。心のどこかで、両親が彼女を見捨てることはないと信じていた。しかし、それは儚い夢だったのだ。

「お姉様……」

 その時、セレナが涙を浮かべながら歩み寄ってきた。

「本当に……ごめんなさい。私が……、こんなことになってしまって……。」

 セレナの目には涙が浮かんでいる。しかし、それを見てもアルメリアは何の感情も抱けなかった。

「でも、公爵家で働けるなんて、とても光栄なことよね?」

 次の瞬間、セレナの顔には柔らかな笑顔が浮かんだ。

「お姉様なら、きっと立派に務められるわ。ね、お母様?」

「ええ、セレナの言う通りですわ。」

「アルメリア、お前も少しは感謝したらどうだ?」

 アルメリアの心が、何かが完全に崩れ落ちる音を立てた。

(もう、私は……家族ではないのね。)

 彼女の存在は、完全に切り捨てられた。

 それでも、エヴラールの瞳だけが、そんなアルメリアを鋭く見つめていた——。

(このままでは終わらない……。終わらせてなるものか……。)

 アルメリアは静かに唇を噛みしめた。

 復讐の火が、彼女の胸の奥で静かに燃え上がっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ