プロローグ
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朝霧がうっすらと漂う庭園。露に濡れた薔薇が静かに咲き誇るなか、アルメリアはそっとその花びらに触れた。彼女は幼い頃からこの庭が好きだった。人々の喧騒や母の厳しい声から逃れるため、ここに来てはひとり静かに本を読んだり、花々と対話するように時間を過ごしていた。
「お姉様、またここにいたの?」
軽やかな足音とともに、双子の妹・セレナが現れた。彼女は淡いピンクのドレスを揺らしながら、可憐な笑顔を浮かべていた。その姿は太陽のように明るく、人々の目を惹きつける。
アルメリアとセレナは、名門貴族であるレグニエ侯爵家の双子の娘だった。しかし、双子とはいえ、その扱いには大きな差があった。セレナは黄金の髪を持ち、陽光の下ではまるで輝く宝石のように美しく見える。その透き通るような青い瞳は純粋で愛らしく、見る者を惹きつけずにはいられない。一方、アルメリアの髪は同じ金色ではあったが、少し落ち着いた蜂蜜色をしており、瞳も深い琥珀色だった。その穏やかな雰囲気は、どちらかといえば控えめで、華やかさに欠けると評されることが多かった。
「お母様が探していたわ。朝食の時間ですって。」
アルメリアはゆっくりと立ち上がった。セレナと並ぶと、まるで光と影のようだった。セレナは華やかで、誰からも愛される存在。アルメリアは慎ましく、控えめであることを求められてきた。
屋敷に戻ると、食卓には母と父が既に座っていた。母の視線が厳しくアルメリアを捉える。
「アルメリア、もう少し早く来なさい。淑女たるもの、時間を守るのは当然のことよ。」
「申し訳ありません、お母様。」
「まあまあ、お母様。お姉様は朝の庭を愛しているのですもの。」
セレナが取り成すように言うと、母の表情は少し和らいだ。
「セレナは本当に優しい子ね。それに比べてアルメリアは……」
母の言葉は続かなかったが、その意図は明白だった。アルメリアはそっと俯き、食事のためにナイフとフォークを手に取った。
そんな日々がずっと続くものだと思っていた。
彼女は穏やかで静かな日常に満足していた。たとえ影のような存在であっても、それが自分の役割だと信じていた。
だが、そんな日々が永遠に続くことはなかった。彼女の運命は、ある日突然、大きく狂わされることになる——。
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