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五分ほどして二人が戻ってきた。再び向かいの席に座ったUちゃんに、僕は、
「どうなったの?」
と聞いた。Uちゃんはまたスマートフォンをテーブルに伏せて、
「はい。ちょっと怒られましたけど、辞めさせてもらいました」
と上気した顔で答えた。
「そう! 良かったじゃん!」
僕は事がすんなり運んだことに少々びっくりしながら、しかし彼女のために素直にうれしく思った。
「あの、本当にありがとうございます」
Uちゃんがペコリ、とルイさんに向かって頭を下げた。ルイさんは、いや別に、と照れくさそうに答えていた。
するとテーブルの上のスマートフォンが今度は「ブブッ……」と短く振動したので、僕たちはギョッとなった。Uちゃんがスマートフォンを確認した。叔母からのLINEメッセージだということだった。読んで、彼女の表情が曇った。
「今月のノルマ分だけはきちんと売り切るように、とのことです。迷惑を掛けないように、それだけはやってくれって」
「ちなみにいくら残ってるの? そのノルマは」
ルイさんが聞いた。
「毎月二十五日に売り上げを〆るので、あと少しだったんです」
と言いながら彼女はハンドバッグから手帳を取り出し、中を確認した。
「今日十二個売ったので、残りが……あとちょうど十個ですね。三万円分です」
「三万」
「はい」
「……ぐっちょん」
ルイさんの視線を左から感じ、僕は嫌な予感を覚えた。
「なんとかならねえかなあ?」
ルイさんがさぞ困ったかのように言った。
「なりませんよ、それは」
僕が言い返すと、
「でもここまできて、あとのノルマ分だけこの子に体を売らせるっていうのはさあ」
「そりゃそうですけど」
「あの」
Uちゃんが割り込んできた。
「叔母に渡すマージンは一個千二百円なので、マージン分だけでもその、肩代わり……してもらえれば私はいいです」
「つまり十個だから一万二千円ってこと?」
ルイさんが聞く。
「はい」
「だってさ。なあ、ぐっちょん。こないだボーナスけっこうもらったって言ってたよな」
「……」
僕はうんざりしながら尻ポケットに入れていた二つ折りの財布を出した。すると一万円札が二枚と、千円札がちょうど二枚、入っていたのである。僕は観念した。
「じゃあ、これ。その代わりもう二度とこんな商売はしちゃダメだからね」
そう説教じみたことを言いながら一万二千円を少女に渡した。
「ありがとうございます!」
Uちゃんはサービスです、と言って十個ではなく十二個入りのコピ・ルアクのセットを代わりに渡してくれた。僕は以前彼女から買ったコピ・ルアクのパックが一、二個まだマンションのキッチンに残っていたことを思い出し、心の底からげんなりした。