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1-6

 ――テレビドラマで使い古されたような、ありがちな話だった。それから先は僕にも想像がついた。Uちゃんは真面目に高校生活の土日の時間を費やしてコピ・ルアクを売り、結局うまく行かなくて枕営業をするようになっていったのだろう。


 叔母にコピ・ルアクの販売を紹介されたところまで話すと、Uちゃんは伏し目になってこう結んだ。


「だから私がコピ・ルアクを売るのを止めると、叔母がなんて言うか。今月分のノルマもまだ……あと少しですけど、達成できてないし」


「叔母さんには枕営業をしていることは言っているの?」


 気になったので僕は脇から質問してみた。Uちゃんはちょっと冷たい視線を僕に注いだ後で、


「はっきりと伝えてはいないけど、多分勘付いていると思います。良くこんなに売るねえ、若くて美人だとお客様の食いつき方が全然違うんだね、なんていつも探るように言ってくるし」


と言った。


「今叔母さんに連絡して辞めちゃいな」


 ルイさんがそう差し込んできた。Uちゃんは小さく、えっ、と言った。僕も内心驚いた。


「こういうのは早い方がいい。今すぐ言っちゃわないと、またずるずる先延ばしになるぞ。言っちゃいな。俺は君をオーストラリアに行かせられる金は持ってないけど、はっきりしてることがある。これ以上そんなこと続けてまで留学なんてする意味ないってことだ。今すぐ辞めちゃえ、そんなこと。叔母さんの連絡先知ってるんだろ?」


「はい」


「じゃあ、連絡しちゃいな。俺がついてるから」


「今、ですか?」


「うん」


「……分かりました」


 Uちゃんは脇に置いていたハンドバッグからスマートフォンを取り出し、両手で何か操作をし始めた。しばらく無言で操作を続け、やがてスマートフォンをテーブルに伏せた。


「コピ・ルアクを売るの、もう辞めたいって叔母にLINEしました。受験が近いので、受験勉強する時間が取れなくなるのが嫌だから辞めたいって理由にしました」


「うん、それでいいと思うよ」


 ルイさんは年下の女性にはどこまでも優しい声を出せる。


ブーッ、ブーッ


 そこでテーブルに置かれたUちゃんのスマートフォンが振動しはじめた。Uちゃんはビクッとしてそれを取った。画面を見た。


「叔母からですっ。わ、わ、どうしよう、私」


「落ち着いて。店の外に出て、電話に出て」


 ルイさんがそう声を掛けた。Uちゃんは右手の人差し指で画面を一回タップした。スマートフォンのバイブが止んだ。


「……あ、切っちゃいました」


「なんでだよっ」


 ルイさんが軽く突っ込んだ。しかしすぐまたスマートフォンが震えだした。


「叔母からです!」


「だいじょうぶ! 俺がついていってあげるから。こじれるようなら代わってあげる。店の中だと他の人に迷惑だからさ、早く外に出て電話に出よう」


「はいっ!」


 二人は慌てて店の入り口に向かって行った。入り口のドアの前で、Uちゃんが歩きながら「もしもし!」と興奮した口調で電話に出るのが見えた。その後ろをルイさんが早足でついていった。二人はガラスのドアを開けて、外に出ていった。


 僕は一人テーブル席に残された。Uちゃんのことが気になったがどうしようもなく、アイスコーヒーをすすった。それからスマートフォンを確認した。いつの間にかメールが一件入っていた。歌穂からだった。


「久しぶり


 飲んでるって、(そう)()の家で?」


それだけだったが、彼女からの珍しい返信に僕は興奮した。慌てて、


「そうだよ。今はちょっと出てるけど、今夜も家で遅くまで飲むつもり(笑)」


と返した。


 メールを送信してしばらく待ったが、新たな返信は無かった。

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