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二人とももう寝巻き姿だったので、外着に着替え直した。僕はマンションを出る前にトイレに入った。便座に座って歌穂にメールを送った。わざわざトイレでスマートフォンをいじったのは、ルイさんの前でメールをすると誰に連絡しているのか、しつこく聞かれるのが目に見えていたからだった。
「久しぶり! 元気にしてる?
こちらはいつもの通り、今夜もルイさんと一緒に飲んでるよ。
そっちも楽しい日々を送れているといいな。」
確かこんな文面だった。
歌穂からの返信が無いのは分かりきっていた。しかし彼女と別れて五年、完全に会ってもらえなくなって四年経っても、僕は二、三ヶ月に一回、歌穂にメールを送り続けていた。ストーカー気味なのは分かっている。気持ち悪いのも分かっていた。しかしメールは特に受信拒否はされていなかった。
この半年ほど前に一度だけ返信があったことがある。借りているマンガを返したいから現住所を教えてほしいという、ただそれだけの無機質な文面だった。僕はすぐ住所を送り、更に歌穂が元気かどうか聞いたがそれに対する返信はなかった。しばらくして小さな段ボール箱に詰められたマンガ本がマンションに届いた。
そんなことをふっと思い出しながら、僕はスマートフォンをポケットに入れ、水を流しトイレを出た。