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2-5

「はい?」


 オーナーはぽかんとしてルイさんを見やった。左手で持ち上げていた眼鏡を戻した。


「だから、電話しちゃいましょう。幸俊さんに。連絡先知らないんですか?」


 オーナーはようやくルイさんの言っていることの意味が脳に浸透したらしく、慌てだした。


「いや、何を言ってますの? 無理やてそんなん! 三十年も連絡しとらんかったのを今さら」


「連絡先分かりませんか?」


 ルイさんはしぶとかった。


「それは……松涛の家の番号は覚えとる、まだ幸俊がそこに住んでいればもしかしたらつながるかも知れんけど」


 じゃあ掛けちゃいましょう。ルイさんがそう言い、オーナーは激しくそれを拒否した。今さらどんな話をしていいか分からないし、今はアルコールも多量に入っている、それに時間も遅すぎる。そんなことを言った。


 ルイさんはそれを聞いて、


「絶対後悔しますよ、家族には会えるうちに会っとかないと」


妙に冷静に言い出した。


「俺も家族――妹みたいなものでしたけど――が去年亡くなったんです」


「ほん?」


 オーナーは聴く態度を見せ、相づちを打った。僕はルイさんが妹を亡くしたというのは初耳だったので内心驚いた。


「沙雪という名前で。俺には家族で一番懐いてくれていました。でも病気で。実家は福島ですから、仕事のあった俺は死に目に会えませんでした。二十歳でした」


「それはまたお若い」


 オーナーが一応といった感じで言った。


「いえ、若くはないです。でも最期を看取れなかったのは、俺、すげえ後悔しているんです。大切な人には会えるうちに会っとかないといけねえんだなって、それから思ってるんです」


「ふうむ……」


 オーナーは村上春樹の小説の登場人物がつきそうな深い相づちを打った。思い悩んでいる様子が見てとれた。


「ちょっと待ってください、ルイさん妹さんがいたんですか? お兄さんと二人兄弟だと思ってました」


 僕が割って入った。するとルイさんは驚いた様子で、


「え? 二人兄弟だけど」


と言った。


「だってその妹さんが」


「妹? いや犬だよ犬。沙雪は」


 ルイさん以外の三人にえっ、という空気が漂った。


「犬でも、家族だからな。二十歳だったから、もう相当おばあちゃんだった」


 ルイさんはあっけらかんと言う。


「そう……ですか」


 僕はそう答える以外に無かった。ルイさんは場の微妙な空気に気付かないのか、


「とにかく! 幸俊さんのこと今でも大切に思ってるんでしょう? 絶対今のうちに連絡した方がいいですよ。せっかく良い機会じゃないですか。じゃないと本当、一生会えず、連絡も取れないままになっちゃいますよ」


とオーナーを説得しにかかった。


 オーナーはこの微妙なルイさんの説得をどう感じたのか、うーん、と言ってしばらく黙った後で、


「分かりました、松涛の家に電話掛けてみます」


と言い出した。

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