1 コピ・ルアクでシドニーへ
鍋からキムチチゲの具があらかた無くなり、つゆもすっかり冷めたところで、ルイさんが、
「あーあ、なんかおもしれえことねーかなあ!」
と言っていかにもつまらなそうに上半身を椅子の背もたれに預けたので、僕は
「キャバクラでも行きます?」
と返してみた。
ルイさんは半目を開けて、
「キャバクラ? この辺にあんの」
と言うので、
「赤羽まで歩けば」
「ふーん」
「はい」
「……」
「……」
二人、ちょっと黙りこんだ。それからルイさんが、
「金がなあ」
と更につまらなげに呟いた。
「そうっすね。……」
僕も給料日前で金が無く(いや、いちおう貯金はあるにはあったのだが、今月はこれだけ使おうと決めている分の金はほぼ使い果たしてしまっていて)、無理にキャバクラなどに行って散財したくはなかった。
部屋はエアコンがよく効いて涼しかった。動いているそのエアコンのモーターが、時々ぶううんと小さく鳴った。窓の外はだいぶ暗くなっていた。僕たちは僕が(ひそかに)自慢にしていた14.8畳のLDKの、ダイニングテーブルに向かい合って座り、男二人きりのしみったれた宅飲みにすっかり飽きていた。
僕たちが夢を見失いはじめていたころの話だ。