お雛様
3月4日、舞子はひな祭りの後片付けに追われていた。昨日の楽しいひな祭りがまるで嘘のようだ。昨日はとても楽しかったな。だけど、今日はいつも通りの1日になりそうだ。
舞子はひな壇とひな人形を見ていた。ひな壇は大きい。ひな人形はあってもなくてもいいだろう。どうしよう考えた。捨てるなんてもったいない。売っても、売り物にならないかもしれない。舞子は考え込んでしまった。後始末をどうしよう。
「さてと、ひな祭りも終わった事だし、もういらないから、捨ててしまおう」
結局、舞子はひな壇とひな人形を捨てる事にした。ひな壇は大きいので、粗大ごみになる。有料だけど、捨てないと。
「そうだね」
夫の孝行もそう思っている。あってもなくてもいいだろう。
それから数日後、粗大ごみでひな壇を出した。ひな人形はリサイクルセンターに売った。2人はすっきりとした座敷を見ていた。もうひな祭りの面影はなくなった。まるで夢のようだった。
「はぁ・・・」
舞子は考えていた。この後、何か起こらないだろうか? 舞子は少し不安になっていた。なぜだかわからない。動機が収まらないのだ。
「どうしたの?」
「いや、何でもないよ」
孝行の問いかけに、舞子は戸惑っている。
孝行は時計を見た。もう寝る時間だ。
「今日はもう疲れたわね。もう寝よう。おやすみ」
「おやすみ」
孝行は寝室のある2階に上がっていった。舞子はその後姿を見ている。
と、何かの気配に気づいて、舞子は振り向いた。だが、そこには誰もいない。今さっき誰かがいるような気配がしたのに。何だろう。
まぁいい。私もそろそろ寝よう。家事をしなければならないから。舞子も2階に向かった。舞子は知らなかった。後ろにお雛様の衣装を着た誰かがいるのを。
舞子は寝室に入り、すぐに寝入った。明日もいい日になりますように。
翌日、舞子は電話で目を覚ました。こんな朝早くに、誰だろう。舞子は受話器をとった。きっと大事な電話のようだ。
「はい」
「私、お雛様。今、リサイクルセンターにいるの」
お雛様? えっ、昨日、リサイクルセンターに送ったのに。どうして電話をかけてくるんだろう。
そして、電話は切れた。舞子は首をかしげた。
「えっ!?」
「どうしたの?」
舞子は振り向いた。そこには孝行がいる。
「お雛様がごみ捨て場にいるって電話をかけてきたの」
「メリーさんみたいだな。メリーさんの電話って知ってるか? 『私、メリーさん。今、ゴミ捨て場にいるの』って電話がかかってきて、その後も電話がかかってきて、徐々に近づいてくるんだよ。そして最後は『私、メリーさん。今、あなたの後ろにいるの』って言うの」
メリーさんの電話とは、捨てた人形が電話をかけながら迫って来る怪談だ。それのお雛様バージョンだろうか? とても怖いな。
「何か怖いよね。でも、それは人形だけの話でしょ? そんな事、ないわよね」
だが、舞子は思っていた。そんなの、メリーさんという人形だけの話だ。お雛様ではそんなのはないだろう。
「うん」
と、そこに娘の香夏子がやって来た。香夏子は小学1年生。多くの友達に囲まれて、楽しい小学校生活を送っている。
「おはよう」
「おはよう。よく寝れた?」
だが、香夏子は冴えない表情だ。何があったんだろう。舞子は首をかしげた。
「ううん。変な夢を見たの」
「えっ!?」
それを聞いて、舞子は驚いた。どんな夢だろう。気になるな。
「ひな人形が私を殴ってくる夢」
「そんな・・・」
舞子は絶句した。こんな夢を見るなんて。どうしたんだろう。まさか、ひな壇を捨てたので、こんな事になったんだろうか?
「そんなの夢よ。そんな事起きないわよ」
「・・・、そう、だよね!」
香夏子は照れ笑いをした。そんな事、あるはずがない。
「さぁさぁ、食べなさい」
「はい・・・」
香夏子は食べ始めた。だが、とても気になるな。何か不吉な予感がしてしょうがない。
孝行は時計を見た。そろそろ出勤する時間だ。早く行かないと。
「行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
孝行は家を出ていった。舞子は見送っている。今日もまたいつもの1日が始まる。
と、舞子はまた、誰かの気配を感じた。だが、やはりそこには誰もいない。
「ん?」
「気のせいか・・・」
舞子はまた首をかしげた。一体なんだろう。全くわからないな。
昼下がり、買い物を終えて舞子は帰ってきた。すでに香夏子は帰ってきて、家にいる。今日の晩ごはんはカレーだ。みんな楽しみにしているだろうな。
「ただいまー」
だが、香夏子のおかえりの声が聞こえない。どうしたんだろう。
「あれっ、香夏子は?」
舞子はリビングに行った。だが、そこに香夏子はいない。とても静かだ。
「帰ってきているはずなのに・・・」
次に、舞子は香夏子の部屋に行った。だが、そこにも香夏子はいない。舞子は首をかしげた。
「おかしいな・・・」
舞子は香夏子の部屋の電気をつけた。床には、大量のひな人形がある。えっ、この大量のひな人形は何だろう。みんなリサイクルセンターに送ったのに。どうしてここにあるんだろう。
「えっ、どうして大量のひな人形が・・・」
突然、ひな人形が大きくなっていき、人間ぐらいの大きさになった。突然の出来事に、舞子は驚いた。何が起こったのか、理解できない。
「えっ、ええっ? うわぁぁぁぁぁぁ!」
舞子はその場に倒れこみ、再び起き上がる事がなかった。その後、舞子の姿を見た人はいないという。
後日、とある人形店には、いつの間にかひな人形が飾られたという。いつ飾られたのかは、誰もわからない。その人形は、どこか人間っぽい感じだ。そして、舞子と香夏子にそっくりだった。