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白藍の深窓令嬢

作者: 雨居神宮



「うぅ。ベスちゃん、貴方だけが私の癒しでちゅわー」


 王都に存在する貴族院の一角。校舎の合間に存在する庭園では、一人の令嬢が毛玉のような犬をひっくり返して、その腹へと顔を埋めていた。


 この少女の名前はスティーリア・ウェントゥスと言う。

 白藍色の長い髪をした子だった。スーハーと音を立てて犬吸いをする顔は緩みきり、真ん丸な金糸雀色の瞳など、薬物中毒者のように虚ろである。


 学院では優等生で名を通す彼女にとって、到底に人前では晒せない表情だ。

 まして犬に赤ちゃん言葉で語り掛ける姿を目撃でもされたら、スティーリアはしばらく実家に引き篭もることだろう。


 その点、動物は人間の言葉を喋れないのが良かった。けっしてこの醜態を言い触らしたりはしないのだ。家柄に関係無く接触してくれる生物にスティーリアは真の友情すら見出している。


 ただ残念ながら、ベスにとっては餌を運んでくる学生の一人でしかない。そろそろ餌を寄越せと吠える犬を、白藍髪の少女は可愛いと抱き上げて。


「……あら、こんな場所にお客さんかしら?」


 まだ雪の残る、寒さが厳しい季節だ。貴族の学び舎として暖の充実する設備があるというのに、好んで屋外席を利用する者は少なかった。


 スティーリアは人の気配を感じ取るや、そそくさと植木の影に隠れた。腕に毛玉を抱え、黄色い瞳がお楽しみを邪魔してくれた者の顔を覗き見る。


 そこには歩道を腕組み歩く、男女の姿があった。まだ色の少ない庭園であるが、会話に花を咲かせ、まるで二人の間にだけ春が訪れているようで。白藍髪の少女は自分の方が邪魔者だったかと肩を落とす。


「まぁ、少し考えれば分かることよね……」


 スティーリアは学院の空気がピンク色に染まりつつあるのを実感し、さながら自分の居場所が無くなるようだと、人知れず白い吐息を零した。


「残念。そろそろ時間なのだわ。またねベス」



 スティーリアは犬の毛だらけになった制服から、ドレス姿へと着替えていた。

 訪れた場所は貴族院の一室である。広い空間には、すでにそれなりの人数が集まっていたが、正装であっても彼女が周囲から浮く事は無い。


 なにせ参加するのは舞踏会である。皆が自分が主役とばかりに着込む中、一人だけ制服の方が悪目立ちをしたことだろう。特にそれが犬の毛だらけだったならば、なおさらか。


「まぁまぁ。ティアのドレス姿なんて久しぶりに見たわねぇ~うふふ」


「あのねぇ。貴女が招待状を持ってきたのでしょう」


 ただ。それとして人目を惹くのがスティーリアという少女であった。露出の少ない白のドレスであるが、彼女が着れば、それはさながら雪の精の如し。


 触れれば溶けてしまうのではないかと思うほどに可憐な姿は、控え目に壁際に立ちながらも異性はもちろん、同性からも注目を集めている。


 一方でそんな白藍髪の少女は、しゃんと背筋を伸ばし、犬吸いなど知りませんがとばかりに、すまし顔で同級生の言葉に耳を傾けていた。


「たまにはいいじゃありませんか。だって、領に帰ったら暫く会えなくなりますもの~」


「私も領に戻る予定だから、会う機会は減ってしまうのでしょうね」


「私たちの実家は少し離れてますものね。すぐにティアへ質問出来ないのは不便だわ」


「卒業したら貴方に魔法の課題を出す人は居ないでしょう」


「それもそっか~」


 彼女たちは最高学年である5年生。春が来ればいよいよ卒業の身だった。積まれた課題に頭を悩ませつつも、いずれ訪れる、雪解けの季節を待ち望んでいる。


 それはスティーリアも同じだ。なにを隠そう、魔法科首席という実績を持つ彼女は、魔導士団や研究室を始め、多くの場所からスカウトの声が掛かっていた。


 同世代で最良の魔法使いを証明する肩書である。どこに行っても胸の張れる栄誉だけに、すでに明るい将来が約束されているとも言えるだろう。


「でも、この季節にまだお相手が決まっていないと、少し焦ってしますわね」


「ジーナは子爵家でしょう。実家に見合いの話は来ないのかしら?」


「それは、ありますけど。なにぶん田舎なので、候補がほとんど親戚や、年の離れた方で~」


「ああ……」


 貴族院に在籍するからには、誰もが少なからず良家の出身なわけだが。地方から訪れている子たちには貴重な出会いの場でもあるわけで。令嬢たちの、なんとしても在籍中に良い男を捕まえてやろうという意気込みは凄まじいのである。


 なので、学業を修めた者たちは最後の追い込みをかけるように相手を求めていた。

 すると必然に訪れるのが、発情期の如し、このカップルブーム。学院内は、右を見ても左を見ても恋人だらけであった。


 独り身仲間だと思っていた者までもが、いつの間にか男を見つけているのだから、取り残されたスティーリアたちには溜息しか出ない。


「素敵な王子様になら、私も出会ってみたいのだけどね……」


 実のところ、スティーリアにも当然のように縁談の話はあるのだ。

 ただ、成績を維持する為に、勉強へ明け暮れた5年間だった。周囲が積極的に行動して、嬉し恥ずかしな青春を過ごす中、ただ黙々と努力をし続けてきた学生生活。


 しかしながら、ほんのちょっぴり恋に興味があるのも厄介で。恋愛小説を読み込んだ数だけは人一倍。多くの見合いを繰り返しながら、理想が高すぎて本人の恋愛経験はゼロ。もう動物が恋人と言い出し、親を呆れさせる程度にはゼロの超奥手なのである。


「ま、まぁ。まだ時間はあるわよ~。所属する派閥とか条件も多いのだから、中々ピッタリの男性なんて見つからないわ~」


「え、ええ。その為の社交界ですものね」


 二人は売れ残りという事実からやや目を逸らし、期待を込めて会場に目を向ける。

 その時、ふとスティーリアの目に入ったのは、机の上に飾られた真っ赤な薔薇であった。


 季節外れの花だ。この時期に蕾が開くのであれば、それは温室で大切に育てられたのであろう。その姿に己を重ね合わせる少女は、自分もいつか綺麗に咲けるのだろうかと思いを馳せて。


 カロンと響く鐘の音。誰か為か舞踏会が始まった。



 貸切られた貴族院の一室。そこでは冬の寒風も何のその。空調の魔道具により暖められた空間は、薄着でも寒さを覚えない。


 幾重に吊るされるシャンデリアが、ユラユラと煌びやかに天井を照らし。端では高名なる楽団が、しかし主張せず静かに耳を慰める。


 補助の面も万全で、丸机の上には摘みも飲み物も豊富だ。壁際に待機する執事と女中が、訪れる客をさり気なく持て成していた。


 普通科、騎士科、魔法科。同じ学び舎に居ながら、どうしてあまり顔を合わせない少年少女が一堂に会し。料理に舌鼓を打ちながら、会話が盛り上がれば腕を組んでステージへ向かう。


 些細な接触ながらも、思春期には貴重な異性と触れ合う時間であった。

 そんな舞踏会へ参加した少女たちは、まるで自分が世界の中心になったかのような全能感に酔いしれるのだが。


「ス、スティーリアさん。どうか僕と一曲お願いします!」


「ええ。喜んで……」


 いざ夜会が始まってしまえば、スティーリアへ男たちが殺到するのは時間の問題だった。どうかお近づきになりたいと、引っ切り無しに円舞の誘いが続いている。


 おいおい男子や。こっちにも素敵なレディーが居るんだぜ。傍では他の少女も暇をアピールするようにグラスを傾けるのだが、どうして現実とはままならぬものだ。


「ギリリ。何よ、あの女……」


 もはや白目を剥き戦意を喪失する彼女たち。しょせん自分たちは端役であったと自覚する。それもある意味仕方なく。もとより人気の高い彼女だが、家柄のために中々近づける男はいなかった。


 更には自慢の娘を過保護に守る両親が居て。厳しい審査に縁談の申し込みばかりが溜まっているのが現状だ。


「まぁまぁ。ティアったら凄い人気ね~」


 それがどうだろう。この時期に社交の場へ、パートナー不在でやって来る。

 まるで鴨がネギを背負って、おまけに鍋まで持参したようではないか。令息の諸君たちには、スティーリアが私を食べてと言っているようにしか見えなかった。


 だが、そこは何処に出しても恥ずかしくない教育を受けたご令嬢。まして自分から男を誘う勇気も経験も無い女。円舞を息をするようにこなし、愛想笑いを張り付けたままに、なんの発展も無く列を捌いていってしまう。


「はぁ、少し疲れたのだわ……」


 スティーリアは結局、数多くのアプローチに気づかず、壁を彩る花となる。

 白藍髪の少女が葡萄酒で喉を潤す様は、さながらに氷の女王の貫録か。誰も彼女の心を溶かせずに、口惜しさに打ちひしがれていた。


「おや、そこの綺麗なお嬢さん。お手隙でしたら、私と一曲どうでしょう」


「あら?」


 また一人、無謀な挑戦者が現れたようだ。肩を落とす令息たちは、次は誰だと興味本位に顔を向けるのだが。どうもその声はスティーリアにかけられたものでは無かったらしい。


 まさか自分への誘いだとは思わなかったスティーリアの友人は、まぁまぁと照れながら、視線は差し出された手と相手の顔を行き来する。


「アミック、貴方……」


「これはスティーリア様。こんな場所でお珍しい」


 スティーリアたちの前に姿を見せたのは、濃い茶髪の少年であった。

 年頃のわりに背は高く、周囲より一つ図抜けている。礼服の上からでも分かる逞しい筋肉から、騎士科の生徒であることは容易に判断がつくだろう。


 自信の表れか、潜めることを知らない大きな声に、二人は少しばかり眉を寄せるが。掘りの深い整った顔立ちを見て、少女が見惚れるように呟いた。


「ええと、ティアのお知り合い~?」


「……そうね。彼はアミック。ライドン伯爵家のご子息よ」


 素性を知り、あらまぁと目を輝かせる友人。けれど当のスティーリアは気まずさから床に視線を逃がしている。


 なにせ、彼は子供の頃よく家に訪れていた幼馴染の一人。けれど貴族院に入学してからというもの、勉学に集中するという名目ですっかり疎遠になっていたのだ。


 しかし彼は夫の有力候補でもあった。縁談の申し込みを無視をして、こんな場で出会ってしまったのが、彼女には溜まらなく居心地が悪い。さながら仮病がバレたような心境で、少女は言い訳を考えて。


「ああ、良かった。やっと貴女も結婚を考えてくれるようになったのですね。どうせ家庭に入るというのに、魔法の勉強ばかりしていて心配だったのですよ!」


「は?」


 男の言い分に、気付けばスティーリアは愛想も忘れて睨みつけてしまう。けれどニブチンは、そんな視線に気付くこともなく持論を続けた。


「いや、私としても箔は大事だと思います。その点、魔法科の首席というのは素晴らしい実績ですね。もう十分誇らしいですよ。うんうん」


 スティーリアの瞳は、もはや丸を通りこして点である。

 この男、なにを己惚れるか彼女の経歴を、もっと言えば女性そのものを、自分の添え物としか考えていないのだった。


 なるほど、貴族らしくはあるのだろう。政略結婚の自覚があるからこそ、なにより対面や見栄えを気にしているのだ。むしろ、スティーリアのような令嬢は、その為に教養を身に着け、美貌や才能を磨く面も確かにあるのだが。


「まぁ、勉強しか取り柄の無いつまらない女じゃなくて良かった。男に興味を持つのは構いませんが、あまり本気にならないで下さいね。お互い立場のある身、節度は守りましょう」


 白藍の髪の少女は、その言葉を掛けられた瞬間に気が付いてしまった。なぜ自分に縁談を申し込んでいるはずの男が、社交の場で他の女に声をかけているのだろうと。


 アミックは婚姻をする前に、遊んでいるのだ。

 恋を探す人間が多いこの時期だから。きっと多くの者が、彼に愛を囁かれては本気になったのではないか。


 たんに刺激を求める者もいるのだろう。しかし、スティーリアは、友へそんな視線が向けられた事が気に食わなかった。未来に遊ばれたと泣く親友の顔が頭を過り、憤りさえ覚える。


「なによ、それ!」


 そんな男に、まるでもう自分の女のように語られるのは屈辱でしか無い。 

 バシャンと大きな水音が会場に響く。水球。あまりの速さで生成されたそれに、少年は躱すことすら出来ず顔面へ直撃をしていた。


 アミックは激しい衝撃に思わず床へ尻もちをつき、全身を濡らしながら茫然自失する。上から、畳みかけるようにスティーリアは言葉を浴びせた。


「お生憎様ですけどね。添え物にだって、誰に寄り添うか選ぶくらいの権利はあるのだわ! 顔を洗って出直して来なさい!」


 テメェなど、こっちからお断りだ。少女は面前で犬のように吠え立てる。

 元より注目を集めていたスティーリアだ。騒ぎは波紋のように広がった。気付けば演奏も止まり、舞踏の足さえ固まった。まさに会場の空気が凍った瞬間であった。


「ティア、これは不味いんじゃあ……」


「はっ!」 


 青い顔の友人に肩を揺すられて、白藍髪の少女はやっと正気を取り戻す。

 勢いで暴行を働き、皆が楽しみにしていたパーティーを壊したのだ。まるで針の筵。どんな非難が飛んでくるのやらと、スティーリアは下唇を噛みながら、冷めた空気に慄いた。


 だが、真っ先に聞こえたのはピューと軽快な口笛の音。続き、良くやったとばかりに拍手が聞こえてくるではないか。


「ど、どうなっているの?」


「さ、さぁ~」


 少女たちは巻き起こる喝采の気持ち悪さに訝しんだ。間違いなく、叩き出されても文句の言えない蛮行だったからである。ならば答えは一つ。場の空気が何者かに誘導されたのだろう。


 大人が居るならばともかく、これは学生同士の集まり。一体誰がと会場を彷徨うスティーリアの視線。そこで彼女が見たものは、まるで面白いものをみたとばかりに口を三日月に吊り上げる、いかにも性根が悪そうな人物であった。


 取り巻きをゾロゾロと引き連れる黒ドレスの女だ。赤髪赤眼で、炎の化身のような少女は、一度だけスティーリアの方を見てボソリと呟く。


「へぇ。あれが噂のスティーリア嬢ね」


「ですわ。やっちまいますか、イグニス様?」


「こらこら。どう見ても私の出る幕じゃないだろ。あの男は少しばかり火遊びをし過ぎたのさ」


 少ししゃがれた声だった。けれど遠くでもハッキリ聞こえる滑舌に、きっと何千何万と魔法の詠唱をこなしてきたのだと、白藍髪の少女は直感的に理解をする。


 なにせ、その女性こそがスティーリアの目指し続けてきた背中だったからだ。

 確かに勉強しか取り柄が無いと笑う者は居た。けれど、彼女は大事な青春の全てを捧げたことに後悔は無い。


 首席を取ろうと、自分が一番では無いことをスティーリアは知っている。

 同学年には、すでに一流の魔法使いが居たのである。その人物は空席の姫君とも呼ばれ、けっして学院という同じ舞台で戦ってくれなかった人で。


「ま、待って頂戴!」 


 遠ざかる背に、自然と手を伸ばす少女。しかし人垣に遮られて、歩は進まない。そう、スティーリアはいつだって、ただ彼女の背に手を伸ばし続けることしか出来なかった。


「よ、よくもやってくれましたね……」


 まるで、もうお開きとばかりに立ち去る女性に、白藍髪の少女は心から落胆し肩を下げる。しかし、これで終われぬのが、スティーリアに水球を食らった少年である。


 彼にも落ち度があったとは言え、公衆の面前で恥をかかされれば怒りもひとしお。喝采の拍手が響くに比例するように、顔色は海老のように赤く茹で上がっていく。


「ティア!」


「え?」


 それは男としてか、或いは貴族としてか。

 これでは面子が成り立たぬと、大きな拳が振り上げられた。咄嗟に友人がスティーリアを庇うように抱きつくが、そのあまりの迫力には彼女も泣きべそを浮かべながら目を瞑ってしまう。


「止めとけよ、アミック先輩。そりゃ恥を上塗りするだけだぜ」


「……お前はっ!?」 


 いつまでも降りてこない拳に、そっと薄目を開く白藍髪の少女。それもそのはずで。彼女の前には、壁のように立ち塞がる逞しい背があった。


 ちらりと振り返るのは、若竹色の髪をした少年である。その三白眼の鋭い目つきに、スティーリアは感謝より先に恐怖を覚えてしまう。戦士の顔と言えば聞こえはいいが、もう何人も斬り殺したような気迫が宿っていた。


 けれど、そんな顔でもニッと笑うと表情は随分と幼く見えるもので、まさか年下なのかとスティーリアは困惑してしまう。


「流石は魔法科の首席だな。速くて正確な良い水球だってイグニスも褒めてたぜ」


「えっ――」


「俺は魔法はよく分からないけど、あれだけすんなりと出るんだ。努力したんだろうなって思った。その姿勢と根性に敬服するよ」


 どうか一曲踊って頂けませんか。そう言って差し出される無骨な手。

 眼を白黒させながらも、思わずハイと手を重ねるスティーリアであったが。その手の感触にもう一度驚いてしまう。


 とても年下とは思えない程に、皮膚は固く、剣ダコに溢れたものだった。

 今日幾度と触れてきた男性の手だが、誰とも違う。まるで剣を握るためにあるようなソレは、少年の努力と生き方が凝縮されたようなもので。


「んだよ……」


「フフッ、いいえ」


 それでも女性の手を握るのには慣れてはいないらしい。

 目を合わせると気恥ずかしそうにソッポを向く少年を見て、スティーリアには心からの笑みが溢れてしまった。伝わる熱さに、もうどうしようもなく溶かされてしまったのだと自覚する。


「くそっ、お前が出てきたらこっちも引くしかないじゃねーか」


 アミックも少年の顔を立てて怒りを飲み込んだようだ。むしろ、この空気で暴れることなど誰が出来よう。


 ずぶ濡れの彼が逃げるように会場を後にすれば、そうか、今は舞踏会の最中であったと。

止んでいた音楽が思い出したように鳴り響き。動き出す時間に、人々はやっとガヤガヤとパーティーに戻っていく。


「あ、あの。お名前をお聞きしてもいいかしら?」


「ああ。俺は――」


 ヴァン・グランディア。その名を聞いてスティーアリは驚きに目を張り、同時に深く納得もする。騎士団長の息子であり、その家と名に懸け、騎士科の頂点に君臨する男の名であった。


 白藍髪の深窓令嬢は、やっと恋というものを知り。その胸が高鳴ってからは、雪解けの季節まであっという間であったのだが。


「私を忘れないで欲しいわ~」


 ポツンと取り残された友人は悔しさのあまりハンカチを噛んだと言う。



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