最終話
目を開けると、雅子の心配そうな顔がそこにあった。
「よかったー」
そう言って安堵した雅子を見て、どうしてこんなことになったのかを思い出した。
小嶋深香を殺した人がいなくなって、私じゃないかって思ってしまった。そしたら椅子と一緒に倒れちゃったんだ。
上体を起こして周りを見ると、どうやら相談部室の床に横になっていたらしい。
外が真っ暗になっているので、結構な時間意識を失っていたようだ。
片手を床に突いて立ち上がり、さっきまで座っていた椅子に座りなおした。
雅子が座ると、いつの間にいれたのか、佳奈実が三人分の紅茶をテーブルにおいた。
「それで、美香ちゃんの中でどんな推理が繰り広げられたのかな」
雅子が聞いてきて、私は倒れる直前に思っていたことをゆっくりと口にした。
「――だと思ったの」
一通り話し終えると、佳奈実は頷きながらこう言った。
「つまり美香ちゃんは優しすぎるんだね」
「えっ?」
意味が分からずにいると、佳奈実は続けた。
「そうやって最終的に自分のせいに出来るのって、美香ちゃんが優しいからなんだよ。それが悪いとは言わないし、むしろ良いことなのかもしれないけど、ちゃんと現実も見よう。小嶋さんがどうやって殺されたのか。動機のある人は、美香ちゃんも含めて全員犯人だとは考えにくいから、殺せる可能性の高い人を考えよう」
可能性の高い人。
可能性があるのは、その時にあの場所にいた人。つまり、本村さん。
でも本村さんは後頭部に怪我をしていた。わざわざそこまでの大怪我を自分で作るとは考えにくい。
だったら。
「本村さんが小嶋深香を刺した後、手を水道で洗っている時に倒れて頭を打ったのかな」
佳奈実は頷いた。
「警察でもその線が濃厚になっていると思うから、本村さんに詳しい事を聞きにいくと思うよ」
そっか。
自分でやっていないとはっきり分かったのに、胸にはしこりがまだあるようだった。
「佳奈実、それだけじゃないでしょ?」
突然雅子が隣に座って紅茶を飲んでいる佳奈実に話し掛けた。
「それだけじゃないって?」
私の疑問には、雅子がハリセンを取り出したのを見て姿勢を正した佳奈実が答えた。
「それは、ナイフを刺したままにしたこと。これって不自然で本村さんが犯人じゃあないことを示しているんだけど、美香ちゃんが言った通り本村さんが犯人でもあるんだと思う」
一気に言われて頭が追い付かないが、とにかく頷く。
「問題はタイミングなの。小嶋さんが刺されたのと本村さんが頭を打ったのと。もし小嶋さんが刺された方が早かったら本村さんはナイフを刺したままにしなかっただろうし、反対に本村さんが頭を打った方が早かったら小嶋さんは刺されることがない。もちろん本村さんが自分以外の人を犯人にしようとしていたなら別だけど、状況からみてそれは無いはず。だから、小嶋さんにナイフが刺さったのと本村さんが頭を打ったのは同時だったの」
私は必死に内容を理解する。
「小嶋さんと本村さんの倒れていた位置は離れていて、二人とも動いた形跡がない。つまり、本村さんが倒れる時にたまたま手に持っていたナイフが飛んでいって、たまたま地面に横になった小嶋さんの胸に刺さって、本村さんはそれを見る間もなく後頭部を強打したんだと思うよ」
「つまり、それは事故っていうこと?」
そう聞くと佳奈実は頷いて紅茶を一気に飲み干した。
私は窓から見える星空を見て、深呼吸をする。
あの小嶋深香が知らない所で事故で死んだことに対する無常感か、あるいは自分が何かしたのではないかという一種の期待が裏切られたことに対する虚無感か。
どこか寂しい気持ちが心の隅に残ったまま、私は相談部室を後にした。
最後まで駄文にお付き合いいただき、有難うございます。
反省。
正直言って、詰めが甘いです。
話の流れがあっち行きこっち行きしていて、しかも統一性が無かった。
自分で書いていて、矛盾している点とか、行動理由が不十分な点が多々あったことが分かったので、実際はそれ以上におかしな話だったのでしょう。
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相談部については、拙作「おこじょ」が初出となっております。
宮さんが誰なのか気になる方はどうぞ。
謝辞
もう一度、最後までお読みくださり、有難うございました。
これからも駄文ですが地道に書いていきたいと思いますので、よろしければ私の他の話もお読みいただければ嬉しい限りです。
以上




