第3話
「私の個人的な知り合いで宮さん、っていう刑事さんがいるんだけど、その人から聞いた話ね。私的に協力を頼まれているの。あんまり他言しないでね。
事件があったのは昨日の1月14日で、場所はこの学校近くの公園。小嶋さんが家を出たのが22時57分で家から公園までが走っても8分かかって、それで犬の散歩をしている人が通りかかって遺体が発見されたのが大体30分。だから死亡推定時刻は深夜23時5分から30分の間。凶器は刃渡りが15cmくらいの一般的なフルーツナイフで、仰向けに倒れた状態で心臓をこうやって一突きされて、即死。まっすぐに心臓まで刺さっていたから、自殺ではないそうよ。肋骨に当たらないように刃を横に向けて刺したみたい。周りに争った形跡とかも見られないから顔見知りの犯行だ、って考えてるみたいね。家を出る前に携帯に非通知の電話がかかってきていて、それで呼び出された可能性が高いって。最初から殺す気だったのか、それとも衝動的なものかは分からないけど。
目撃者はいないそうよ。現在警察は聞き込みの真っ最中。まああの時間のあの辺りは人通りが少ないからあんまり警察の方も期待していないみたいで、どちらかというと彼女の友達関係を中心に調べているみたい。彼女に恨みとかを持っている人は結構いて、これがそのリスト。美香ちゃんみたいに直接的に嫌悪を明らかにしていなくてもこの学校にもいるみたい。二年生だけで美香ちゃんを除いて少なくとも2人はいるみたいだし、他の学年にもいるわね。
まあ酷かったみたいよ。小さなものから大きなものまでイジメとか色々。私たちは共感はしてもどちらにも同意しかねる、っていう立場だからどっちが悪いとは言わないけどね。話がそれたけど、彼女を恨んでいる人はこの学校に美香ちゃん以外にもいるっていう事。
あと、これは相談部としては守秘すべき内容だから詳しくは言えないけど、一応伝えておくわね。今日の昼休みに小嶋さんのお友達の水村沙智さんと大槻友子さんの二人が来たわ。彼女達、大分動揺していて、今日は早退したそうよ」
言い終えて紅茶を一口飲んだ雅子は、隣に座った佳奈実を見た。
視線を佳奈実に移すと彼女は一つ頷いてこっちを見返し、そしてテーブルの上のメモを見た。私もそこを見る。
ずらりと並んだ名前の中で、五つにマーカーが引かれていた。佳奈実がそれを読み上げる。
「山崎好美、大槻友子、音無緑、小岩亜理栖、美能結華、それと美香ちゃん。この六人がこの学校の生徒で、小嶋さんに何かしらの恨みをもっているみたい」
「あれ、大槻さんって」
「ん〜、そうなの。一応宮さんにも聞いてみたんだけど、彼女は強請られていたことがあったみたい。今はもう解消しているみたいだけど」
そうだったんだ。大槻さんも。
私は冷め始めた紅茶を一口飲んで、雅子から聞いた話を吟味する。
まず気になったのは、何で小嶋深香は非通知の電話だったのに出かけたかっていう事だけど、これはやっぱり大槻さんが――
「大槻さんは犯人じゃあ無いね」
そう言った佳奈実に、私はただ意味が分からず首を傾げた。
佳奈実は残った紅茶を一気に飲み干して話し始める。
「彼女、ここに来た時、本当に悲しんでたから。あれは嘘じゃない。でも、電話をかけたのは彼女だよ」
私は更に首を傾け、佳奈実に続きを促す。
「なんで電話したか、とか彼女達が話してくれて、まだ警察にも言ってないし守秘義務があるから言いたくないんだけど。でも、言わないといけないよね」
私は頷く。
佳奈実はじっと私の目を見つめて、しばらくするとふぅと息を吐いてから話し出した。
「昨日が何の日か、っていうのは知らない、よね」
昨日が何の日か?
今日は昔、成人の日だったけど……。
「その日は小嶋さんの誕生日だったの。それで、大槻さんと水村さん、それに本村孔子さんの三人はサプライズで小嶋さんを呼び出して、夜の公園で小さなパーティーをやったんだって。手作りの小さなショートケーキをその場で四等分して、皆で食べるっていうささやかなパーティーでね。それが終わって、大槻さんと水村さんはすぐに帰ったみたい」
「それってつまり」
「ううん、本村さんも犯人じゃあないと思う」
私は訳が分からずに、ただ佳奈実の顔をじっと見ていた。




