第2話
同日の放課後。
私はとある扉の前に立っていた。扉には『相談部室』という紙が斜めに貼られている。
コンコン
「しつれいしまーす」
「どうぞ」
中から馴染みの声が返ってきてホッとすると共に、扉を開けた。
「あけましておめでとう」
そう言うと、中にいた二人も返事を返してきた。
「おめでとー」
「おめでとう」
井藤雅子と御中佳奈実、ここ相談部の部長と副部長だ。クラスは2年2組で、いつもこの時間はここにいる。
他にも相談部員はいるのだが兼部している生徒が多いせいか、だいたい私がここに来るとこの二人だけがいるのだ。
「美香ちゃん、今日はどうしたの?」
いつの間にか佳奈実が椅子を用意していて、私はそこに座って雅子と向かい合うように座った。佳奈実は今は横でカップに紅茶を三人分淹れている。
私は佳奈実が紅茶を淹れ終わり、座ったのを確認してから話し始めた。
「今朝の集会のことなんだけど」
「うんうん」
雅子が頷く。
「小嶋深香が亡くなったんだよね」
「そう、生徒会の方には連絡があったし、個人的にもそう聞いているし、あと一応新聞部の人たちもそう聞いてるって言ってたよ」
「本当なんだ。何時頃亡くなったかは?」
「えっと、だいたい昨日の夜の、11時くらいだって聞いたよ」
やっぱりそうなのかな。
「あの、驚かないで聞いてね」
「うん、大丈夫。去年の今頃なんて、妖怪を見たなんていう人も来たくらいだから、ちょっとやそっとじゃあ驚かないよ」
「うん。えっとね、その、もしかしたら何だけど、その、小嶋深香を殺したのって、私かもしれないの」
馬鹿にされるだろう、と思いながら俯いていると紅茶をすする音が聞こえてきた。
顔を上げると雅子が目を細めて紅茶を飲んでいた。隣にいる佳奈実は目を瞑ったまま黙っている。
「お、驚かないの?」
そう聞いてみると、雅子は首を少しだけ傾けてこう言ってきた。
「驚いてほしい?」
私は首を横に振った。
それに雅子は微笑んで、カップを置いてから続けた。
「実はね、そういう相談って珍しくないのよ。私が誰かを殺したんじゃないかって。でも、それは大体の場合は偶然なんだよね」
「偶然じゃない、よ」
私がそう言うと、今度は佳奈実が質問してきた。
「詳しい事を話してくれない?」
私は頷いて話し始める。
「えっと、前にも何度か話したと思うけど、小嶋深香と私って仲が悪いじゃない。本当に遊び心だったんだけど……ティッシュペーパーで人形を作ってね。それと彼女を重ね合わせてカッターをその胸の部分に刺したの。それが大体、夜の11時ごろ」
「うん」
「だから私、自分が殺したんじゃないかって思って、それで」
それで……何?
私はどうしたかった?
「私たちから言えることは、それは本当に偶然だった。たまたま時間が被ってしまったの。美香ちゃんは何も小嶋深香さんに対してしていないし、それは客観的な事実ではある。もし、小嶋深香さんが死んだ事を気に病むのなら、どうしてそう思うのかを考えればいい。そうすればきっと、自分が何をすべきか、見つかるよ」
雅子の言った言葉を噛み締める。
どうしてこんな気持ちになるのか、か。
自分が小嶋深香を殺してしまったから。でも本当はそれは嘘だと分かっている。でも、本当にそうなの?
別の人が殺したはずなんだよね。
そう、私じゃない別の人。きっと私と同じ学校に通っている、生徒。
本当の犯人が分かれば、その人から話を聞けば、私はやってないって確信できる。
よし、犯人を捜そう。
「うん、私、犯人を捜す」
目の前に座る二人は私のその言葉に静かに頷いた。
「それじゃあ、事件の詳細を説明するね」
佳奈実がそう言うと立ち上がって窓際に立ち、既に夕日が沈み薄暗くなり始めた外を眺めた。
「あれは、そう。私がまだ家にいた時間だった。その時はまだ、私は今日あるはずだった一時間目の漢字のテストの勉強をしていたの。そして私がパイナップルをどうやって漢字で書くのか悩んでいると、突然それはやってきた。そう、それこそが――」
スパコーン
いい音をたてて、口を半開きにした佳奈実が倒れる。
その音のもととなった真っ白なハリセンを持った雅子は、佳奈実を無視したまま私に向き直った。
「さて、それじゃあちゃんと説明するわね」
私はコクコクと頷いた。




