第1話
ティッシュペーパー二枚で作った人形。
私はその胸にカッターを振り下ろした。
翌朝。
「美香、朝ごはんできてるわよ〜」
母の声に目が覚めて、私こと宮城美香はベッドから飛び起きた。
現在時刻は7時40分、学校に間に合う最後の電車は8時2分発、そして家から駅までは急いでも15分。つまり制限時間はあと7分しかない。
急いで着替え、鞄を片手にダイニングへ。
そこにはゆっくりと食事をする両親が、珍しく箸を止めてテレビに見入っていた。
『――に発見された遺体は胸を一突きされて――』
「いってきまーす」
私はそんな両親を気にする事もなく、目玉焼きの乗ったトーストを口に詰めて、急いで駅に向かった。
なんとかギリギリで電車に乗れた私は、無事に学校の2年1組に辿り着いた。
「おはよ〜」
「おはよう」
自分の席に座り、前にやってきた友達の西嶋彩子と挨拶を交す。
「ね~、今朝のニュース見た〜?」
私は首を横に振り、尋ねる。
「何かあったの?」
「この近くで高校生が死んでたらしいよ。しかも噂によるとこの高校の生徒みたい」
「誰?」
「そこまでは分かんないけど、胸を一突きだったらしいからここに犯人がいるんじゃないか、っていう話」
最近はなくなったが、一年位前には警察沙汰になる事件が何度もあった。
今から丁度一年半前の6月に起きた、一クラス全員がそのクラスの生徒によって殺害された、という事件は、今でも学校に尾を引いている。
なのでこういう話題はデリケートであり、そして皆敏感なのだ。
『ピ〜ンポ〜ンパ〜ンポ〜ン、生徒会より連絡です。本日六時間目に体育館で緊急生徒朝会を行います。生徒の皆さんは五時間目の授業が終わり次第、至急体育館に集まって下さい。繰り返します。本日――』
教室がざわつき各々がそれぞれの思いを友達に打ち明ける中、私はまだ教室に来ていない一人の生徒を思い浮かべていた。
1月になって二回目になる体育館は、ちょうど一週間前の全校集会の時と同じように寒かった。
「おはようございます、生徒会長の二年、齊藤尊です。本日は急遽、六限目を生徒集会に変更して下さった先生方にありがとうと申し上げたいと思います」
そんな言葉から生徒会副会長の言葉は始まった。
「さて、皆さんは既にテレビなどで聞き及んでいる事かと思いますが、昨日の深夜、我が校の一生徒が亡くなりました」
ざわつく体育館。
私は、矢張りと思うと同時に、彼女であってほしい、そして彼女であってほしくない、という二律背反な思いを持っていた。
誰かの声で体育館は静まり返る。
「警察では、公式な発表はまだですが、昨年度の状況も踏まえ、生徒会に非公式ではありますが情報を提供くださいました。生徒の皆さんには落ち着いて聴いてほしいと思います。亡くなられたのは、2年1組の」
私のクラスで、今日学校に来なかったのは一人だけ。
彼女の名前は――
「小嶋深香さんです」
やっぱり、そうだったんだ。




