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ある日の気まぐれ

あの日から数ヶ月経った。名前をチラッとホタルから聞いたぐらいの認識しかないが、新たな人が乗車してきたらしい。男と女が1人ずつ。

流石にずっと新人と顔を合わせない……もとい引きこもり状態なのも忍びないので久々に外に出ようと決意した音夢は、朝ごはんを届けに来てくれた瓏に外に運んでくれと頼んだ。瓏は特に理由を聞くことも無く、2つ返事でOKしてくれた。優しい人だなと思った。きっとそんな事ないと拒否すると思うし、本人に直接言うことは無いけど。


10時頃……まぁこの列車の正確な時間は分からないのだが恐らくそのくらいの時間に瓏が再び部屋に訪れ、私の身体を抱え込んで運ぶ。4.5両目は……あまり行きたくないので2両目に連れて行ってもらった。

2両目には忙しそうに裏で作業をするくまたろと2人の見た事ない人物がいた。片方は黒い綺麗な髪……私の白髪とは違う羨ましい程に綺麗な髪の女。もう片方は右目に眼帯を付けた長い金髪の男。なんとなく見たことある気がして記憶を漁ってみたが、ろくな記憶がないので気の所為だと思うことにした。


「あら、どなただったかしら?」

「千佳さん。あの子は初めましてだよ。僕はベルノア。気軽にベルとでも呼んでくれ」

「私は千佳。いつでも、なんでもお姉さんに頼ってね」

「初めまして。ボクは音夢。音に夢と書いて音夢だよ。よろしくなんだよ」


自己紹介を終え、ベルノアについて…まぁこの人なのか分からないけど……思い出した事があるので伝えようかと思い、瓏を見て口を開く。


「瓏さん、悪いけど千佳さん連れて行って欲しいなぁ……なんて」

「気が乗らないなぁ……千佳さん。ちょっと2人きりでお話しません?」


瓏は音夢をベルの前の席に座らせ、千佳を誘って3両目に向かって行った。やっぱり優しい人だねあの人。ベルノアはニコニコと千佳を見送ってこちらをチラッと見る。


「僕に用があるの?」

「勘違いだったらごめんなさいなんだけど……ベルさんってベルノア・アルファルドさんで合ってる?」

「そうだけど……あれ?初めましてだったよね?フルネームも教えた事ないと思うんだけど…?」

「まぁ……ベルさんは有名人だから…」


ある意味では有名人と言うだけで一般的に広い意味で有名人かと言われればそんな事は無いのだが、音夢にとっては有名人だ。


「僕が有名人?そんな訳ないと思うんだけど」

「あ……ボクの中では有名人ってだけで世間一般的には有名人かどうかは分かんない…ボクはベルさんに会って見たかったし()()()()()()()()()()()()()()はずだよね?」

「ん?……いや、知らない人に会いたいとは思わないけど…」

「えーだってボクは」

「はーい、音夢ちゃんそこまでにしましょーね」


ホタルが後ろから音夢の口を押さえる。文句を言おうとした音夢はもごもごと声にならない声を出すだけだった。数秒後に解放された音夢はしまったという顔をして申し訳なさそうにベルに謝ると、千佳と一緒に戻ってきた瓏に連れられ3両目に帰って行く。


「瓏さん!音夢ちゃん後で説教だから部屋から出さないでね〜!!」


ホタルの言葉に軽い返事と文句を言うような声が廊下から響いてきたが、聞こえないふりをしてホタルが「あの子のことは気にしないで」と声をかけて出て行った。

戻ってきた千佳が何処と無く心配そうな表情でベルの顔をのぞき込むが、ベルはよく分からないといった困惑した表情で居なくなるホタルを見つめていた。





時は瓏と千佳が離れた時まで戻る。瓏は2両目の端の席……ギリギリ音夢が見える場所に位置取る。こちらの様子を伺っていた音夢は瓏が席に座るとベルの方を向いて話し始めた。


「初めまして、私は千佳。さっきあの……えっと音夢?ちゃんにも言ったのだけれど、いつでもなんでも頼ってね」

「……初めまして。僕は瓏です。分からない事があったら有難く頼らせてもらいます」


千佳さんとのいつも通りの会話に、いつも通りの笑顔で返す。この会話は何度目だろうか?千佳さんの初めましてを数えるのは随分前に辞めてしまった。

チラリと音夢の方に目線をやると1両目からいたずらっ子の様な顔をしたホタルがシーっと口元に指を立てながら歩いている。驚かせるつもりなのだろうか?少しあの子が驚くところは見てみたいが……


「えーっと…瓏さん?話って何かしら?」

「いえ、特に急ぎの話とかは無いので……そのネックレス綺麗ですね」

「ふふ、いいでしょ。彼氏に貰ったの。彼は…………どんな人だったかしら…?」


千佳がかーくんと彼氏の愛称を呼び、頭を抱える。ボーッと考え込む千佳を見ていると音夢とベルの方からホタルの声が聞こえた。会話は終わったのだろうか?と顔を向けると、ホタルが手招いていた。


「千佳さん。また彼氏さんのお話は今度聞かせてください」

「ええ。なんだかぼんやりとしか思い出せないのだけど……機会があったら是非聞いて欲しいわ。素敵な彼だもの」


千佳に軽く礼をして席を立った瓏はホタルに言われるままに音夢を抱えて3両目に戻る。


「瓏さん!音夢ちゃん後で説教だから部屋から出さないでね〜!!」


ホタルの2両目からの声に「おっけー」と返事をし、駄々を捏ねる音夢を(音夢の)自室のベッドにポイッと放り込む。扉の前に座り、ホタルが来るまで何をして待とうかと考えたタイミングでホタルが現れた。ササッとベルとの話を終わらせて来たらしい。


「音夢ちゃんは?」

「ベッドの上」

「じゃあちょーと優しく怒ってくるね」


ホタルが部屋に入ると、部屋から微かに怒るような声が聞こえ、暫くすると音夢の泣く声が聞こえる。少し心配になったが……まぁ久しぶりに出てきて何かやらかしたなら少しくらい強めに怒られた方がいいかもしれない。

瓏はその場から離れ、2両目のベルや千佳と話をしてその日は楽しく過ごした。ちなみに音夢はあの後もしばらく怒られていたらしい。何をやったのかは知らないがこれで反省すればいいのだが……まぁ多分しないだろうな…


明日どんな感じか少し楽しみだな……と瓏は小さな声で呟いた。

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