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41 思わぬ事態

珍しく父王の執務室に呼ばれたグレイシスは、デイジーとドロシー、そして二人の護衛騎士に連れられて廊下を歩いていた。

どんな用事かも知らされておらず、父の使者が来た時には首を傾げたが、とりあえず行ってみることにする。


父の執務室の前まで来ると、付き添ってくれた騎士たちは扉の前で待機した。


扉の前にいた近衛騎士が扉をノックすると、すぐに中から返事がある。

扉を開けてもらって中に入ると、執務室に置かれたソファには母である王妃と兄のフランツ、ジョルジュが座っていた。


「あら? 皆さまお揃いでしたのね」


呑気なことを言いながら兄たちの隣に腰を下ろす。

全員揃ったところで、父である国王が執務机から立ち上がった。父の隣には宰相が立っている。


「いやあ、皆んな。忙しいところすまないね」


こちらも呑気に挨拶をする。


「家族を皆んな集めるなんて、何かあったのですか? 父上」


フランツが代表して発言すると、国王は、うむ、と一つ頷いてみせた。


「実はな。近々行われるアークボルト帝国との合同演習に、帝国の第二皇子殿下が来ることになったんだよ」


「第二皇子殿下がですか? 確か、皇帝陛下自らいらっしゃる予定だったはずでは?」


「そうだ。両国の友好のために開催されるから、ということで、皇帝陛下直々にいらっしゃる予定だったのだが……。どうやらお怪我をされてしまったらしくてね。急遽、代理としてミハエル第二皇子殿下を立てられたそうだ。我が国は皇子殿下を来賓として手厚くもてなしをする。色々と予定が変更してしまうのは申し訳ないが、皆んな、力を貸してくれないだろうか。歓迎の夜会も開くし、その際はグレイス。君にサポートをお願いしてもよいかな?」


「わたくしが、ですか?」


国王は頷いた。


「そうだ。ミハエル第二皇子殿下はグレイスより二つほど年上だ。年も合うだろうし夜会に一緒に参加してもらいたい」


「なるほど。わかりましたわ。わたくしでよければお手伝いいたしますわ」


「ありがとう。フランツとジョルジュには騎士団の訓練の同行、その他のもてなしを頼みたい」


「はい。わかりました、父上」


「うむ。そこでメロディアーヌよ」


国王は王妃の名を呼んだ。


「君には、公務の書類仕事が多く回されることになる。皆の接待に向いた労力分の仕事がくると思ってほしい。もちろん、グレイス。君にも手伝ってもらいたいと思っている」


「わかりましたわ。あなた」


「もちろんですわ、お父様。任せてくださいませ」


「頼もしい限りだ。それでは各々、よろしく頼むぞ」


「「「「はい」」」」





緊急の家族会議を終え、それぞれの部署に急ぎ指示を出していく。綿密な打ち合わせがなされ、グレイシスも忙しく動いていた。


(この様子だと、しばらくお花の小物作りや刺繍に時間を費やすことはできなさそうですわね……。でも、シャアル様もお忙しいようですし、今度お会いするのは合同演習が終わってからだから、お約束の日にはちゃんと行けそうですわね)


よし、と心の中で気合を入れると、グレイシスは己の執務室に向かって歩みを進めた。



◇◇◇



その頃。

南の砦では―――――


アークボルト帝国からの手紙を読み終えたシャアルが、大きなため息を吐いていた。


「……なんでこんな時期に怪我なんかされたんだ……」


隣で手紙を受け取って目を通していたジェラールが、同じく息を吐いた。


「これは公にはされていないことなのですが。……どうやら、隣を歩いていた皇后陛下に見惚れていて、階段を踏み外されたとか……」


「………………………………」


「くれぐれもご内密に」


「まったく。……何をやっているんだ、あの方は……」


「これは、一部、計画の見直しが必要な案件ですね……」


「……そうだな。で、代理で来るのは―――」


「ミハエル殿下です」


「なるほど。そうすると、警備も多少変えなくてはいけなくなるな。やれやれ……。ここまでせっかく順調に進んでいたというのにな……」


「敵は味方にいた、というところでしょうか」


二人は再びため息を吐いた。


「まずは、アメイジング王国側と打ち合わせをするぞ。騎士団長は執務室にいる時間か。先触れは無しだが、行くぞ」


「はい。かしこまりました」


―――どうやら、こちらも忙しくなりそうだ。




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