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4 小さなお茶会

王侯貴族の夫人、令嬢たちには社交という大事な“お仕事”がある。本当に仲良くお喋りをすることもあれば、激しく牽制しあうこともある。

ある意味ここは、女の闘いの場でもあるのだ。

グレイシスも社交で得た情報を、良し悪しに関わらず兄達や国王陛下、王妃陛下に報告している。

これが結構、政務に役立つこともあるのだから、侮ることができない。


しかし、今日のお茶会はそんな堅苦しいものでは全くなく、むしろグレイシスはこの日をとても楽しみにしていた。

親友であるポリエット公爵家の令嬢、マリアンヌと二人だけのお茶会だからだ。


天気も良いので、王城の庭園の奥にある白いガゼボにお茶の用意をしてもらう。

桃のコンポートのタルトに、チョコチップのクッキー、色とりどりのマカロンに軽いサンドイッチ。どれも美しく、アフタヌーンティースタンドに並べられている。

グレイシスとマリアンヌが向かい合わせに座ると、控えていた侍女たちが綺麗なティーカップに紅茶を淹れ、とても良い香りが広がった。


どうぞ、というグレイシスの言葉で、お茶会は始まった。


グレイシスがカップに口を付けるのを見守ってから、マリアンヌはカップを持ち上げた。


「グレイス様のところでいただくお茶は、いつも香りが違っていて楽しめますわね」


金髪に碧の目の美しい少女マリアンヌは、グレイシスとは同い年の幼馴染だ。

はじめて会ったのは4歳のころ。お互いの母親どうしが仲が良かったため、母たちのお茶会に連れていってもらったのがきっかけだ。

二人はすぐに意気投合し、好きなぬいぐるみや絵本の話などに夢中になったものだ。


「わたくしは香りの良いものを好むのですけれど。家族がみな好みが違うので、毎回こうして趣向を凝らしているのですわ」


少しだけ得意げに片眉を上げたグレイシスを見て、長年の付き合いであるマリアンヌはぴんときた。


「まさかとは思いますが…両陛下や殿下方には内緒で、皆様用の茶葉を、なんてことは……」


グレイシスは人差し指を唇にあて、なんてこともないように言った。


「あら。内緒ですわよ。いつもほんの少〜しだけ拝借していますの。だって、そのほうが色々と楽しめていいでしょ?」


「まあ。呆れたこと」


二人はくすくすと笑いあう。



そういえば、とマリアンヌは話を切り出した。


「つい先日、そろそろわたくしも婚約者を決めたらどうかと父に言われてしまいましたわ」


高位貴族となれば、幼少のころから婚約者がいても不思議ではない。マリアンヌにいままで婚約者がいなかったのは、自由恋愛をマリアンヌが望んだからだ。

ポリエット公爵家には男児が三人いる。

二人の兄と、一つ下の弟。兄たちにはすでに婚約者がいる。

なので、公爵家にとってはそこまで急いで娘の婚約者を決める必要もなかったわけではあるのだが。

自由恋愛が増えてきたとはいえ、あまりのんびりしていると、良いところの令息たちは売約済みになってしまう。さすがの公爵も、そろそろ心配になってきたのだろう。


「まあ。本当ですの?」


グレイシスは身を乗り出した。


「いつまで経っても、わたくしがお相手を決めないものだから、とうとうお父様が痺れを切らしたようなのです」


マリアンヌは小さくため息をついた。


二人は幼い頃から、絵本に出てくる王子様との恋物語りに憧れを抱いていた。そんなのは絵本の中だけのお話だとはわかっていても、幼い二人は夢中になって読んだものだ。


出会いを求めて、という大義名分で参加する夜会や舞踏会は、行ってみると、ついつい仲の良い友人たちとのお喋りに講じてしまう。

もちろん、声をかけてくれる男性も大勢いるのだが、二人にとっては皆、良い友人止まりであった。


王女と公爵家令嬢という身分でありながら、この歳まで決まった相手がいないということのほうが奇跡であったのかもしれない。


「でも、公爵様でしたら、きっと素敵な方を見つけてくださるはずですわ。その方と恋をすればよろしいのではないかしら」


グレイシスが言うと、マリアンヌも笑顔になった。


「そうね。出会いのお手伝いをしていただく気持ちでいればいいのよね。どうか素敵な方でありますように。グレイス様も良い方と巡り合えますように」


「ありがとうございます。お互いに素敵な出会いが訪れますように」


二人は手を握りあって微笑んだ。

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