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3 恋に夢みて

自室に戻ったグレイシスは、子供の頃から仕えてくれている専属侍女のデイジーの手を借りながら、部屋着に適したドレスに着替えた。

その側では、デイジーの手伝いをしている、三つほど年上の侍女、ドロシーが脱いだドレスを手にしている。


窮屈で仕方のなかったコルセットを外してだいぶ楽になった体を、両手を上にあげてう〜ん、と伸びをして、グレイシスはデイジーに窘められた。


「グレイシス様?」


「あら、見ていました?」


グレイシスははにかんで肩をすくめた。


「ここには、わたくしの他にはデイジーとドロシーだけしかいないのよ。少し大目にみてくれてもいいと思いますわ」


デイジーは苦笑いだ。


「しかたがありませんね。今日は大事な式典でお疲れにもなったでしょう。お茶でもお淹れいたしますね」


「ええ。ありがとう」


デイジーがお茶を淹れてくれている間に、ドロシーには式典用に飾り付けた髪を編み直してもらう。彼女たちの手にかかれば、どんな髪型だってあっという間に出来上がるのだ。

グレイシスは、鏡の中のドロシーの手元を覗き込んだ。優しい手つきで髪を梳かれ、プラチナブロンドの髪に櫛を入れると、途端に艶やかさが増す。

誰かに髪を触ってもらうのは気持ち良くて好きだ。

不意に鏡の中のドロシーと目が合った。


「ドロシーは、本当に手先が器用ですわね」


「学園で頑張った甲斐があります」


「そんなことはありません」と言わないところが、いかにもドロシーらしい。

彼女たちのように王宮に勤める侍女、侍従、それに高位貴族に遣える者たちは、専門の学園に通って教育される。いわば、プロ中のプロなのだ。


支度が整ったグレイシスはソファに腰掛けると、デイジーは紅茶を淹れたティーカップとお菓子を、慣れた手つきでテーブルの上に並べていく。


ティーカップを持ち上げ、湯気の立つ紅茶をひと口飲むと、ようやくグレイシスはひと息つくことができた。


「はあ。本当に良い香り。デイジーの淹れてくれたお茶が一番好きですわ」


「まあ、嬉しいことを仰ってくださいますね。私の淹れたお茶でグレイシス様が寛げるのであれば、いくらでも淹れて差し上げますわ」


仲の良い二人は、ふふふ、と微笑みあう。


「それにしても、今日のフランツお兄様、一段と素敵でしたわね。わたくしもいつか恋をするなら、お兄様たちのような素敵な方がいいですわ」


頬に手を当ててグレイシスが言う。


「グレイシス様は、どのような殿方がよろしいのですか?」


ちょっと顎に人差し指をあてて考えてみる。


「そうですわねえ。とにかく誠実な方がいいですわ。それとできれば、わたくしよりも強い方ですと尚いいですわね。きっとわたくしは政略結婚になるのでしょうけれど、その前に一度は恋というものをしてみたいですわ」


少し残念そうにグレイシスは言う。

貴族であっても、そのほとんどが政略結婚なのだ。ましてやグレイシスは王族である。その可能性は大いに高いとグレイシスは思っている。なにせ、二人の兄が政略的に決められた婚約なのだから。


今までにも、いくつか縁談がきていたのは家族から聞いて知ってはいる。

どれも、この国の高位貴族の令息との縁談だ。

より国内の団結力を求めるというのであれば、願ってもない話だったであろう。


しかし、恵まれたことに、戦後の国内は王族、貴族が一丸となって復興に努めてきた。

一部の反対勢力はあったのだが、先の戦争を誘導、加担していたこともあり、すでに断罪されている。

今の国内には、グレイシスを降嫁させてまで改めて縁を繋ぎとめたいと思う家はない。

小さな国ということもあるのだろう。それほどまでに、アメイジング王国の王侯貴族は安定しているのだ。

姉のジョアンナが公爵家の嫡男と恋をして降嫁しているので、できれば末娘にもできる限り自由な結婚をさせてやりたい。

両陛下はそのように考えてはいるが、恥ずかしがり屋で未成年のグレイシスには、まだそのことを話をしてはいない。


「うふふ。グレイシス様は武術、特に剣術にも長けていらっしゃいますものね。そうですね。そうだとしても、誠実な殿方とご縁があるようにお祈りいたしますわ」


「ええ。ぜひ、そうしてちょうだい。わたくしもお相手の方には誠実でありたいと思っていますから、誠実な方!これだけは譲れませんわ」


真剣な表情で、淑女らしからぬ拳を握るグレイシスをみて、私の姫様が誠実な殿方とご縁がありますように、と祈らずにはいられないデイジーであった。

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