22 可愛い人
落ち合う約束をした妖精の家の前まで行くと、すでにシャアルが来ていた。
リュークを撫でている彼は、今日は乗馬服姿で、やはり腰に剣を携えている。
長身に長い手足、程よくついた鍛え上げられた筋肉が、その装いを引き立てている。
グレイシスは、思わずその姿に見惚れてしまった。
キャロルに跨ったまま近くまで行くと、今日もシャアルがキャロルから下ろしてくれた。
「こんにちは。シャアル様。またお待たせしてしまいましたわね」
「いや。私も来たばかりだよ。それにしても……、その、いや…………なんでもない。気にしないでくれ」
横を向いてしまったシャアルは、わずかに耳の先が赤い。不思議に思ったグレイシスは、首を傾げてみせた。
今日はグレイシスも乗馬服を身につけている。しっかりと体のラインが出ているのだが、そんなことにグレイシスが気がつくはずもなく。
華奢であるのに、実は女性らしく丸みを帯びているなんて反則だ。スラリとした長い手足と相まって、なおさら魅惑的に見えてしまう。
好いた女性のそんな姿を前にして、もっと見ていたいという欲と、あまりじろじろ見ては失礼だ、という気持ちがせめぎ合っている。
シャアルは、目のやり場にちょっと困ってしまった。
「シャアル様? いかがなさいました?」
シャアルは、はっと我に返り、わずかに首を振る。
「あ、いや、すまない。大丈夫だ。今日もたくさん持ってきたようだね。キャロルが重そうだ」
「また人参を持ってきましたのよ。遠乗りをするのなら、尚のことこの子たちにはオヤツが必要ですわ」
グレイシスは、ふふ、と笑う。
「そうだね。ありがとう。荷物はこちらで持つよ。リュークは半分、軍馬の血が入っているから、力持ちなんだ」
「まあ。そうですのね。それは頼もしいですわ。では、荷物持ちをお願いしようかしら」
「ああ。任せてくれ」
そう言うとシャアルは、キャロルに括り付けられた大きな袋を二つ取り外した。
リュークの両脇に袋をしっかりと固定したのを確認して、グレイシスの元に戻ってくる。
「バスケットは私が持つよ。ほら、貸して」
差し出してきた大きな手に、持っていたバスケットを渡す。
「何からなにまで、ありがとうございます」
「いや。このくらい、なんてことないよ」
彼はいったん足元にバスケットを置くと、グレイシスに向き直った。
「さあ。今度は君の番だ。おいで」
いつものようにキャロルに乗るのをエスコートしてくれ、そのあと自分も、長い足を使って颯爽とリュークに跨る。
「では行こうか」
「はい」
グレイシスはシャアルの後を付いていった。
森の中ではのんびりとお喋りをしながら、ゆっくりと進んでいく。
シャアルとの初めてのお出掛けに、グレイシスの胸は踊った。
森を抜けると、キャロルとリュークは勢いよく駆け出した。
シャアルはちら、と隣を走るグレイシスを見る。
どうやらこのスピードでも問題なさそうだ。
しかも、にこやかに微笑んでもいるので、随分と余裕もあるらしい。
後ろに流れるプラチナブロンドが陽の光を浴びて、女神のように美しい。
これだけ乗馬の嗜みがあるのだから、やはり彼女は高位貴族なのであろうと思われた。
シャアルは安心して前を向くことができた。
グレイシスは並走するシャアルを見る。
彼女が持ってきたバスケットを片手に抱え、右手だけで手綱を握っている。
その姿勢で、よくこのスピードが出せるものだと感心してしまう。
体は安定しており、姿勢もとても良い。頼もしいその姿は凛々しく、さすがは騎士だと思わせるものがある。
グレイシスは、思わず見惚れてしまっていた。
グレイシスの視線に気がついたのだろうか。ふいに彼がこちらを振り向いた。
パチリと目が合って、じっと見ていたことが恥ずかしくなったグレイシスは、頬が熱くなるのを感じ、思わずはにかんだ。
その様子を見て、シャアルは思わず堪らない気持ちになった。
(なんて愛らしい人なんだろう……。ずっと見ていたくなる……。)
シャアルから蕩けるような甘い笑顔を向けられて、グレイシスの胸はドキリと高鳴り、更に頬を赤く染めた。
それを見たシャアルは、思わず笑ってしまった。




