18 花飾り
今日はデイジーがお休みなので、ドロシーに髪を梳いてもらう。
グレイシスは癖のない艶のあるプラチナブロンドなので、キラキラと輝くようだ。
鏡台の前にはたくさんの髪飾りやリボンが並べられている。
グレイシスは、以前、お忍びの街歩きの時に買った淡いピンクの細いリボンが付いた髪飾りを手にして、ドロシーに渡した。
「今日はこれがいいですわ」
普通のリボンも可愛くて好きなのだが、髪留めだと金属部分がいざという時の武器にもなる。ついつい、そんなことを考えてしまう自分に苦笑いをしてしまう。
「こちらの髪飾りでしたら、複雑に編み込まずに、シンプルにまとめましょうか」
「ええ。お願いしますわ」
ぱちん、と留めてもらい、グレイシスは首を左右に動かして、鏡の中の自分をいろんな角度から見てみた。
「とてもお似合いですよ」
「ありがとう」
グレイシスはにこりと微笑んだ。
◇◇◇
妖精の森を二人で並んで歩く。それだけのことなのに、心が弾む。
木々の葉擦れの音が耳に心地よく、グレイシスの髪をさらりと靡かせた。
その様子をシャアルは優しげに見つめている。
グレイシスは後ろで手を組み、辺りをキョロキョロと見渡しながら進む。デイジーがいたらこれも窘められるだろうが、今は自由時間なので気にしないでおく。
足元をリスが横切り、木を登って巣穴に入っていった。
「可愛い……」
シャアルは視線をグレイシスから外し、彼女が見ている方へと顔を向ける。
すると巣穴からリスが顔を覗かせた。
シャアルはグレイシスの耳元に口を寄せ、小声で囁く。
「ここの動物たちは、あまり人間を警戒しないようだね」
吐息が耳をかすめ、少し驚いたグレイシスは彼の方へ顔を向けたが、あまりの近さに顔が火照ってきた。
「ほんと、可愛い」
シャアルは肩を揺らして小さく笑った。
しばらく行くと、少し開けた場所に出た。
妖精の家周辺ほどは開けてはいないが、ぽっかりと空間のようになっている。そこには白い小花がたくさん咲いていた。
「まあ。素敵。このような場所があるなんて、知りませんでしたわ」
「本当に良い所だね。これは、何の花かな」
「花かんざしに似ていますわね。春のお花だと思っていたのですが、ここは少し涼しいから狂い咲き?」
シャアルは小さな花を一輪手折って、グレイシスの髪に挿した。
「うん。よく似合っているね」
グレイシスはふわりと笑った。
それをみてシャアルの頬がわずかに染まる。
「ありがとうございます。こういうお花は特に好きなのです。できれば、もう少しお花を摘んでいこうかしら」
「花が好きなのかい?」
「ええ。大好きですわ。刺繍もお花をモチーフに刺すことが多いかもしれません」
グレイシスは刺繍が得意だ。
淑女の嗜みだ、と母に教わったのだが、もうすっかり趣味の一つとなっている。
お茶会では手にかけたテーブルクロスを披露したり、お客さまにハンカチをお土産に持たせたこともある。
もちろん評判は上々である。
「そうなんだね。今度見せてほしいな」
はい、と笑顔で答えたグレイシスは、そこにしゃがんだ。
「分けてくださいな」
花に手を伸ばし摘みはじめたのを見て、シャアルも隣にしゃがむ。
「手伝うよ」
彼も大きな手で白い花を摘みだす。
そうして二人で静かな時間を過ごす。こんなひと時も悪くない。
「部屋に飾るのかい?」
「このお花、少しカサカサしていますでしょ? 花瓶に生けるのではなく、ドライフラワーや押し花に向いていると思いますの。これで小物や花飾りを作ってみたいですわ」
「じゃあ、ちょっと多めに摘んでいこうか」
「嬉しい! もしよろしければ、摘むのをお手伝いいただけますか?」
「ああ。もちろんだよ。蕾も摘むの?」
「いいえ。咲いているお花だけで大丈夫ですわ」
シャアルは次から次へと摘んでいく。
「こうして花を摘むのも、けっこう楽しいものなんだね」
「そう言っていただけると、わたくしも気が楽になります。シャアル様、上手ですわね」
グレイシスは彼から手渡された花を受け取り、手持ちのナプキンに乗せていく。
二人でせっせと摘んだおかげで、あっという間にナプキンいっぱいに集まった。
丁寧に包み、シャアルに持ってもらっていたバスケットに詰め込んだ。
「これは大作が出来上がりそうだな」
「ふふふ。何を作ろうか、考えるだけでとても楽しみですわ。これもシャアル様のおかげですわね。ありがとうございます」
こんなに沢山摘んだのに、お花はまだまだ辺り一面に咲き乱れている。
これなら、来年もまた沢山の花を咲かせるだろう。グレイシスは安心した。
お花畑を後にするときも、グレイシスは何度も振り返った。
その様子に気がついたシャアルが声をかける。
「どうかした? 忘れ物?」
背の高い彼を見上げて、グレイシスは言う。
「いいえ。あのお花畑をとても気に入ってしまって。また来たいと思っていましたの」
「ははは。そういうことか。いいよ。また来よう」
「はい! ありがとうございます」
シャアルはバスケットを持っていない方の手で、グレイシスの手を握った。
グレイシスは彼の瞳をみて、にこりと微笑んだ。




