11 二人のランチ会
キャロルの腰にぶら下げていたいくつかの大きな袋を取り外そうとしていると、シャアルが横からさっと手を伸ばしてきた。
「手伝うよ。……うわ、これけっこう重いね。何が入っているの?」
言葉とは裏腹に、軽々と足元に袋を下ろしていくシャアルがたずねる。グレイシスは、ふふ、と楽しそうに笑った。
「今日は、キャロルとリュークに、おやつの人参を持ってきたのですわ。キャロルは喜んで食べるのですが、リュークは食べてくれるかしら」
シャアルは破顔した。
「こいつにも、おやつを持ってきてくれたんだね。ありがとう。人参はリュークの好物なんだ。―――おいで! リューク」
シャアルが声を掛けると、リュークはお利口にも大人しくこちらへ歩み寄ってきて、キャロルのすぐそばに並んだ。
「なら、よかったですわ。はい、どうぞ」
グレイシスは袋の中から人参を取り出し、シャアルに手渡す。自分も袋の中から一本取り出してキャロルに食べさせた。
「良い子ですわね、キャロル。いつもわたくしと一緒にいてくれて、ありがとう。これからもお友達でいてくださいね」
その様子を優しげに見ていたシャアルも、リュークに人参を差し出した。……が、ぷい、と顔を背けられてしまった。
その隣で、グレイシスがキャロルに二本目を食べさせようとするのと同時に、リュークは首を伸ばし、グレイシスの手から人参をパクッと食べた。
「まあ!」
グレイシスは驚いた声をあげ、これにはさすがにシャアルも呆れてしまった。
「……おい。お前なあ……。私の手からは食べないくせに、美人からもらう人参なら食べるのか……。人を選ぶなんて、まったく……」
ため息を吐くシャアルに向けて、リュークはさも当然とでもいうように、シャアルの方を見てぶるると首を振ってみせた。
「こら。こいつ、わかっててやっているな。まったく、現金なものだなあ……」
そのやり取りを見たグレイシスは、口元に手を当てて楽しそうに笑い声をあげた。
◇◇◇
二人は小川の水で手を洗いハンカチで拭うと、すぐそばに敷物を広げ、仲良く腰を下ろした。
グレイシスが持ってきたバスケットには、サンドイッチ、カットされた果物、お茶の時間に食べるつもりで焼いてもらったマドレーヌ、紅茶とジュースの入ったポットが二つ、可愛い木のカップなどが入っている。
サンドイッチは数種類、ハムとレタス、卵、香ばしく焼きあげた鶏肉のスライスなどだ。アクセントになると思って、オリーブの実の瓶詰めも持ってきている。
グレイシスが二人の間にそれらを手際よく並べていく様子を、シャアルは切れ長の目を細めて見ている。
それからグレイシスはカップに飲み物を注ぎ、シャアルに手渡した。
「はい、どうぞ。今日も暑いですから、冷たい葡萄のジュースですわ」
「ありがとう。美味しそうだね。こんなにたくさん用意するの、大変だっただろう?」
「わたくしは何もしていませんわ。ランチもお菓子も作ってもらいましたもの」
「でも、ここまで持ってくるのは、重かっただろう?」
グレイシスはなんてことない、というふうに答える。
「このくらい、大丈夫ですわ。わたくし、けっこう力持ちですのよ」
ちょっと得意げな顔をしているグレイシスをみて、シャアルは可笑しそうに肩を揺らす。
「どうやら、そのようだね。では、その力持ちさんが持ってきてくれたランチのご相伴に預かるとしますか」
「はい。召し上がれ」
いただきます、と、シャアルは大きく口をあけて、サンドイッチに齧り付いた。しばらく咀嚼をして飲み込むと、目を輝かせて感想を述べた。
「うん。これ、美味しいね。レタスがシャキシャキしている」
グレイシスも卵のサンドイッチを食べてみる。
「本当。いつもよりも美味しいですわ。外でいただくから余計に美味しく感じられるのかしら」
「それに、『二人で食べているから』ということも付け加えておいてほしいな」
グレイシスは熱くなった頬を隠すため、俯いた。
「もう。からかってばかり……」
「ははは。私は本当のことしか言わないよ」
グレイシスは、愉快そうに笑うシャアルを軽くひと睨みし、サンドイッチを小さく齧った。




