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1 プロローグ

カーテンの隙間から朝日が差し込み、小鳥のさえずりを聞きながら、グレイシスの長いまつ毛がふるふると震える。

やがてアメジストのような紫の瞳がまだ眠たそうにゆっくりと開き、瞬きを繰り返す。

ようやく目が覚めたグレイシスはぴょこんとベッドから降り、カーテンのところまで歩いていった。

カーテンを両手で掴み、小さな体で開けようと引っ張ってはみるものの、なかなか動いてくれない。


「う〜ん。うまくいかないわね……」


残念ながら、まだ幼いグレイシスには大きなカーテンを動かす力は無い。

ぴょこぴよこと跳ねながら引っ張っていると、ちょうどそこでドアが三回ノックされた。


「グレイシス様、お目覚めでしょうか」


グレイシスはドアを振り返り、元気よく返事をする。


「ええ。もうおきているわ」


「では、失礼いたします」


部屋の中に入ってきた専属侍女のデイジーが、カーテンに絡まっているグレイシスを見て微笑んだ。


「まあまあ。そのようなことは私がやりますわ」


「はやくことりさんたちに、あさのあいさつをしたいのよ」


ぷくっと膨れるほっぺがなんとも愛らしい。


デイジーにカーテンとともに大人の背丈よりもある大きな窓も開けてもらい、グレイシスは喜んでバルコニーに飛び出した。


アメイジング王国首都アメイジングスは今日も快晴。

柔らかな日差しの中、庭には色とりどりの花が咲き乱れている。

春の香りを胸いっぱいに吸い込むと、少年たちの元気な声が聞こえてきた。

下をのぞき込むと、そこには兄たちが模擬剣を担ぎながら楽しそうに歩いてくるのが見える。

グレイシスは身を乗り出し、兄たちに声をかけた。


「おはようございます!フランツおにいさま。ジョルジュおにいさま」


二人の少年は声のする方を見上げ、元気よく手を振った。


「おはよう!グレイス。ずいぶんと早起きだね」


「おはよう!気持ちのいい朝だね」


兄たちは笑顔でそう挨拶をした。


「これから朝の稽古なんだ。午前の勉強も終わったら、久しぶりに秘密基地に行かないかい?」


グレイシスはぱあっと笑顔になる。


「ぜひいきたいです!たのしみにしていますね。おけいこ、がんばってください!」


「ああ。行ってくるよ」


「またあとで」


グレイシスは急いで部屋の中に入り、デイジーの手をとった。


「きょうはおにいさまたちと『ようせいのもり』にいくのよ。おきにいりのワンピースをきていきたいわ」


「かしこまりました。お髪も可愛くしましょうね」


「とびきりかわいくしてね」


「はい。とびきり可愛くしましょう」


水瓶から陶器の洗面器に水を入れ、まずは顔を洗う。

ふわふわのタオルで顔を拭いてもらったグレイシスは、にこにこしている。


まだ幼子の、ちょっぴり舌足らずな話し方にほっこりする。

小鳥たちへの挨拶はどこへやら。小さな女の子はすっかり忘れてしまったようで、すでに気持ちは兄たちとのお出かけ一色だ。

小さな手に引かれながら、デイジーは衣装部屋からグレイシスお気に入りの水色のワンピースとピンクのドレスを出してくる。

デイジーが両手にドレスとワンピースを掲げて言う。


「まずは、ドレスに着替えましょうね。お出掛けするときに、こちらのワンピースを着ましょう」


「はあい。まずは、どれすね」


グレイシスは目を瞑って、その場でバンザイをした。

デイジーはグレイシスの寝巻きの首にあるリボンを解き、ボタンを外すと、ネグリジェをすっぽりと脱がせた。

淡いピンクのフリルが付いたドレスを着せてもらうと、グレイシスは小走りで化粧台の前に行く。

スツールに両手をついてよじ登ると、可愛く足を投げ出した。足をぷらぷらさせながら、デイジーが来るのを待つ。


「今日は、白いお花の髪飾りを付けましょうね」


「はあい」


癖のない綺麗な髪に櫛を通しながら、デイジーは微笑んだ。




家族で朝食をとったあと、兄たちの勉強が終わるまで、グレイシスは自分も部屋で家庭教師とマナーの勉強に勤しんだ。


昼食用にとシェフにサンドイッチや果物を用意してもらい、いよいよグレイスはお気に入りのワンピースに着替えたのだった。

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