表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スウィートカース(Ⅳ):戦地直送・黒野美湖の異界斬断  作者: 湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
第一話「起動」
8/54

「起動」(8)

 工場地帯のもよりの飲料販売機……


 思いゆくままに自販機を叩いて蹴ったあと、ヒデトはその場にうずくまった。両手で顔をおおい、だれにともなく嘆く。


「ごめん、ミコ。ごめん……」


 最後までミコはヒデトを救った。親をなくしたときも、そしてついさっきも。


「なんで俺、おまえにあんなに冷たくあたってたんだ? ……わかってるさ。照れくさかったんだ。認めたくなかった、現実を。おまえは、あのとき終わったはずの俺の人生の続きなんだよ」


 ミコの言葉がフラッシュバックする。


 ……嫌いにならないで、ヒデト。


「おまえこそ、もう大嫌いだろ? 俺のことなんて?」


 手首に輝く銀色の腕時計を、ヒデトは目の前にかざした。


 これに一定のコードを打ち込めば、この場で自分は、火薬と呪力をミックスした爆発を起こして消滅する。範囲は最小限。痛みがあるかどうかなど、もうどうでもいい。あとは組織が、静かに消え去った存在にしかるべき罪を負わせて完了だ。


 時計にゆっくり指をのばしかけたとき、ヒデトの頭上に影がさした。


「ちょっと、きみ。金を入れる場所がふさがれているんだが。邪魔だ」


「うるせえ……消えろよ?」


 声の主を、ヒデトはやぶ睨みにした。


 その眼球にいまにも硬貨を投入しかけているのは、砂目だ。


 迷惑げに顔をよけたヒデトの横、砂目はあっさり小銭を入れ終えた。商品ボタンの前で指をとめ、ヒデトへ問いかける。


「コーヒーでいいな?」


「最後の晩餐ってやつかい? 好きにすりゃいい」


 取り出し口に落ちてきた二缶のうちひとつを、砂目はヒデトに手渡した。自販機にもたれかかり、ヒデトと同じ方向をながめながら切り出す。


「過去、似たような経験は私にもある」


「な、なんだって?」


 眉を跳ね上げて、ヒデトは砂目を見返した。


「あんたが……自分の昔話だって? きょうはほんと、異世界の多い日だ」


「大切な相棒だった」


 砂目が見つめる青空には、ここにはないなにかが映っていた。


「どれだけ相棒が私を慕ってくれていたかも知らず、ひとりで行かせてしまった。追いかけたものの、行く手を大きな扉がさえぎる。正直もうどうすればいいかわからず、私はふさぎ込んでしまった」


「あんたは、どうやって解決を?」


 コーヒーのふたを静かにあけると、砂目は答えた。


「たずねた。まわりにいた多くの人々に、正解を。そのとき初めて知った。自分はひとりではない。おなじ道をたどった人間は大勢いる。すこし意地をこらえ、すこし勇気をだして質問するだけで、解決法はみつかるのだと。現場経験の浅い若手は、行いそのものが間違いでできている。たぶん私も間違っていた」


「あの、聞いていいか?」


「短い時間で、簡潔にな」


 ヒデトがそれを口にするまでには、しかし長い時間がかかった。


「あんたの相棒は、ちゃんと戻ってきたのかい?」


 こんどは逆に、砂目が黙考する番だった。しばしの間を置いて、答えを舌にのせる。


「ああ。最後に別れを言える時間ぐらいは、ともに過ごせた。いまはもう、いないがな」


「そうか……悪かったな。そんな話をさせて」


 うつむいたまま、ヒデトはささやいた。


「助けてくれ、課長。どうすれば俺は、ミコを救える?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ