表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スウィートカース(Ⅳ):戦地直送・黒野美湖の異界斬断  作者: 湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
第一話「起動」
7/54

「起動」(7)

「ミコひとりで行かせただと!? ばかやろう!」


 工場地帯を早足に往来するのは、特殊装備に身を固めた無数の捜査官たちだ。


 多くのパトカーや組織の車両等に、敷地の内外は埋め尽くされている。ひときわ目立つ大型の輸送車の内部、胸ぐらを掴み上げられるのはヒデトだった。


 押しつけたヒデトで車を揺らした太腕は、マタドールシステム・タイプ(パーティション)……パーテのものだ。その天井をつく巨体のせいで、特注の大型スーツすらタイトに見えてしまう。


 パーテ、そしてすこし離れた席に座る砂目の追求は徹底的だった。だが当のヒデトはというと、生気のない顔つきで視線をそらしている。


「だって、ただの人間だぜ、俺。あんたら戦闘用のアンドロイドと違って弱い。今回の任務も、ミコひとりで十分だったんだ。俺が邪魔さえしなければ」


「人も機械も関係ねえ! チームだろうがよ、おまえらは! いいか。人は道具に頼らないと戦えねえ。道具は人の手助けがないと動けねえ。それは石器時代から同じだ!」


 野太いパーテの叱責に震えたのは、車内に所狭しとならぶ分析機器たちだ。むこうで他人ごとのように電子書類に目をとおす砂目へ、パーテはたずねた。


「なあ、だんな。ミコの反応はまだ掴めないのか?」


「おかしなことに、まったくだ。〝時計〟を外してオフライン状態で逃亡したり、自爆した形跡等もなし。そこの穀潰しが吐いたとおり、異世界に連れ去られたとかいう説を可能性に加えるべきかもな」


「くそ、なんて可哀想な妹。こんな間抜けが相棒でさえなけりゃ……」


 胸ぐらを放され、ヒデトは脱力したように壁にもたれかかった。神経質げに目頭をもみながら、補足したのは砂目だ。


「施設内で生じた死傷者に関して、ゼガ社と警察は組織に説明を求めている。だが防犯カメラが記録した仮面の弓使いと黒野、両当事者のゆくえは依然不明。いまのところ、責任のほとんどは組織にあるな」


 憔悴しきった面持ちで、ぽつりとこぼしたのはヒデトだった。


「かまいませんよ、やっちゃってもらって」


 怒れる火山のごとく腕組みしたまま、パーテは首をかしげた。


「なに言ってやがる?」


「気なんて使わずはっきり言えよ。俺が取ればいいんだろ、ぜんぶの責任を。実際そうなんだからな。さいしょからミコといっしょに動いて、よけいな手出しさえしなければ……」


「取るって言ったってだな、ヒデト。わかってるとは思うが、変な証言でもすれば懲戒免職クビていどですむ問題じゃねえぞ。それに、腹は立つが、おまえの言ってることを俺は信じる。組織の記録にない異世界の力に、ミコは飲み込まれた。そこで腐ってるより、助け出す算段をたてるのが先だろ。いまもミコは、おまえの助けを待ってる」


「なんでわかるんだ、そんなことが?」


「機械にもな、勘みたいなもんはあるんだ。組織の情報源(データベース)に長いこと蓄積した経験と、現状の分析がそう囁いてる」


「助けるって言ったって……なんの手もない」


「だからよ! すぐ諦めんな! 凄腕の〝黒の手(ミイヴルス)〟が手も足もでないなんて通用しねえ!」


 ふらりと立ち上がると、ヒデトは輸送車の出口へ向かった。報告書からわずかに視線をあげ、問うたのは砂目だ。


「どこへ?」


「だれもいないところへ、さ」


 輸送車のステップを降りながら、ヒデトは背中でつぶやいた。


「ここで自爆されたら、掃除が大変だろ?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ