「実行」(3)
パーテの知らせどおり、ミコの部品は一日ごとに届いた。
裸のミコを組み上げるのに気まずさをおぼえたとき、ヒデトは決まってかたわらの絶対領域を見ることにしている。ミコは待っているのだ。そしてヒデトの作業はあくまで仮組みにしかすぎない。全身が組み上がったあと、ミコは設備の整った研究所で最終的な加工を受ける必要がある。
学校では、ミコは病欠ということになっていた。ヒデトはひとり淡白な気分で登下校し、夕方ごろに配達される荷物を受け取る日々を送っている。
「あとは頭だけ、か。そこにあの脳みそを突っ込めば、あいつは起きる」
放課後の夕焼け空をながめながら、異常者扱いされるような台詞をヒデトは独白した。
頭部をのぞいたミコの機体は、もはや完成寸前だ。できあがった体にはさっさと制服を着せてある。取扱説明書に下着の脱着方法まで載っているのは、さすがに馬鹿にしすぎだとヒデトはそこにいないパーテめがけて怒鳴った。しかしわからないものはわからないので、きちんと説明書を読んでしたがう。
その日はすこし、様子がちがった。
下校のとちゅう、手首の腕時計が急に着信音を放ったのだ。ひさびさのことにちょっと驚いたのはなんとか隠し、ヒデトは組織の呼び出しに応じた。
「はいよ、こちら〝黒の手〟」
〈私だ〉
「砂目のだんな」
〈いま話せるか?〉
「ちょっと忙しい。任務の途中でね。家で受け取るものがある」
〈りっぱに仕事しているようじゃないか。学生という擬装を。だがカバンの中身はカラのようだな。美須賀大付属では、教科書の放置は校則違反ではないのかね?〉
瞳だけを動かして、ヒデトはあたりを見回した。
用心深く探るまでもない。いた。そばの自販機の陰に、あの仏頂面の上司が。
自販機にもたれたまま、砂目は硬貨を投入口にいれた。いっせいに飲み物のメニューが輝く。
砂目はヒデトにたずねた。
「どれにする?」




