「実行」(2)
「あいよ」
ヒデトが玄関の扉をあけると、立っていたのは配送会社の制服を着た少女だった。
メガネをかけた少女と、その胸についた社員証を見比べ、うなったのはヒデトだ。
「染夜名琴?」
「は、はい、わたしです」
大きなダンボールの箱をかかえた染夜配達員を、ヒデトはやぶ睨みにした。
「組織の差し金か?」
染夜配達員は、困ったように首をかしげた。すこしおとなしめの性格らしい。
「ふぁ、ふぁいあ? いえ、須川急便ですが……」
「階級は?」
「かいきゅう? お給料の形態のことですか? あ、アルバイトです」
「その荷物はなんだ?」
「お客様へのお届け物です」
腰に隠した投げナイフをとんとん小突きながら、ヒデトは急き立てた。
「なぜこんなことをしてる?」
「お、お客様のお求めの品物と、満足をお届けするためです」
「そういう四角四面なことは、朝礼でとなえるだけでいい。俺が知りたいのは、染夜さんよ、あんたの真の目的だ」
しまった、すこし変わったご意見をお持ちのお客様にあたってしまった……こういうケースをすんなり切り抜けるには、まだアルバイトにしかすぎない染夜配達員は経験があさい。ヒデトの威圧感におされ、おずおずと答えてしまう。
「その、わたし、弟と二人暮らしでして……」
「へえ、がんばってるんだな。両親はいないのか?」
「相棒のイノ、いえペットの犬はいます。弟もあたしも学生なんですが、働かないと生活が苦しくてですね、はい。ペットは寝てばかりでよく食べ、エサ代もばかになりませんし。いろんなアルバイトを探した結果、いまの須川急便さんがいちばんわたしに……」
「もういい、よくわかった。へんな質問して悪かったな、ねえちゃん。サインはここにすればいいか?」
「はい。あ、ありがとうございます」
深々と頭を下げる配達員を扉で封じて、ヒデトはダンボールを居間へ運んだ。
かなり重い。
静かにおろしたダンボールのフタを、ヒデトはていねいにナイフで開けた。厳重に梱包材の敷き詰められたそこに入っていたのは、とんでもないものだ。
額に手をあてて顔をそむけると、ヒデトのため息は震えていた。
「そこから届くのかよ、ミコ……」




